相続で事業を引き継いだときの消費税の確定申告をする

概要

個人事業者が亡くなり、その事業を相続によって引き継いだ場合、事業を承継した相続人自身が、消費税の課税事業者として確定申告をしなければならないことがあります。

この記事は、被相続人(亡くなった事業者)の申告ではなく、事業を承継した相続人本人が行う消費税の確定申告を対象とします。相続人が、自分の課税期間・納税義務・計算方式・必要書類・期限・提出先を確認し、申告を実行できる状態まで案内します。

被相続人の死亡した課税期間についての申告や、相続税、所得税の準確定申告はこの記事の対象外です。これらは別の記事で扱います。

このページで分かること

  • 被相続人の申告と、自分(相続人本人)の申告がどう違うか
  • 自分が消費税の確定申告をする必要があるかどうか
  • 自分が申告すべき課税期間
  • 相続年に、自分の取引としてどこから集計すればよいか
  • 自分に適用できる計算方式(一般課税・簡易課税・2割特例・3割特例)
  • 申告に必要なもの、申告書の作り方の基本順序
  • 提出方法・期限・提出先
  • 自分で判断できない場合に、どこで何を確認すればよいか

対象読者

  • 個人事業者だった被相続人の事業の全部または一部を相続により承継した人
  • 相続特例により、相続年・翌年・翌々年に消費税の納税義務が生じた人
  • 相続前は免税事業者だった人、または事業をしていなかった人
  • 相続前から自分でも個人事業をしていた人
  • 被相続人の申告と自分の申告を混同している人
  • 相続年のどこから自分の課税取引として集計すればよいか迷っている人
  • 簡易課税、インボイス登録、2割特例・3割特例等との関係を確認したい人

更新日

更新日:2026年10月2日

最初に確認すること

申告準備を始める前に、次の5点を確認してください。

  1. これは被相続人ではなく、自分自身の申告か。
  2. 自分は対象課税期間について課税事業者か。
  3. 自分の課税期間は何か(暦年か、1か月・3か月の特例か)。
  4. 相続年の場合、課税対象となる自分の取引はどこからか。
  5. 自分に適用する計算方式は何か。

5点をすでに確認できている場合は、「必要なもの」から先に進んでください。確認できていない項目がある場合は、本文の該当する見出しへ進んでください。

相続で事業を引き継いだときの消費税の確定申告とは

被相続人の事業を相続によって引き継いだ場合、消費税の確定申告には二つの側面があります。

  • 被相続人側の申告:被相続人が死亡した課税期間について行う申告。死亡時固有の期限や書式があります。
  • 相続人側の申告:事業を承継した相続人本人が、自分自身の課税期間・納税義務・計算方式に基づいて行う申告。

この記事が扱うのは後者、相続人本人の消費税確定申告です。相続人は、被相続人の基準期間の課税売上高等に関する相続特例によって課税事業者となる場合と、相続前からの自分自身の状況によって課税事業者となる場合があります。どちらの理由で課税事業者となっているかを最初に区別することが、申告の出発点になります。

被相続人の申告と自分の申告を分ける

被相続人の死亡した課税期間について行う申告と、事業を承継した相続人本人が行う申告は別の申告です。

  • 被相続人側:死亡した事業者の申告として扱います。死亡時固有の期限や、被相続人の申告に用いる付表等が関係しますが、これらはこの記事の対象外です。
  • 相続人側:相続人本人の申告として扱います。自分自身の課税期間、納税義務、計算方式、納税地に基づいて申告します。

被相続人の売上・仕入れをそのまま自分の申告へ合算することはできません。被相続人の取引と、自分が事業を承継した後の取引は、帳簿上でも区別してください。

被相続人の死亡までの申告についてご案内が必要な場合は、「死亡した個人事業者の消費税の確定申告をする」で確認してください。

自分の申告が必要か確認する

自分が当該課税期間について消費税の課税事業者かどうかを確認します。課税事業者となる理由には、次のようなものがあります。

  • 消費税法上の相続特例により、被相続人の基準期間における課税売上高等の条件によって、相続があった年・翌年・翌々年の納税義務が免除されない場合
  • 相続前からの自分自身の基準期間の課税売上高、課税選択の届出、インボイス発行事業者としての登録等により、相続とは別の理由で自分が課税事業者となっている場合

相続特例により相続年の納税義務が免除されない場合、相続があった日の翌日からその年12月31日までの課税資産の譲渡等・特定課税仕入れについて納税義務が生じます。相続年は1月1日から必ず全部課税されるわけではありません。

自分がどちらの理由で、あるいは両方の理由で課税事業者となっているかをまだ判定していない場合は、「相続で事業を引き継いだときの消費税の納税義務を確認する」で確認してください。

どの課税期間を申告するか確認する

消費税の課税期間は、原則として暦年(1月1日から12月31日まで)ですが、課税期間特例の届出により1か月または3か月の課税期間を選択している場合があります。

被相続人が課税期間特例を利用していたとしても、その届出の効力は相続人へ当然には及びません。自分自身の課税期間がどうなっているかを確認してください。

自分の課税期間がまだ分からない場合は、「相続で事業を引き継いだときの消費税の課税期間を確認する」で確認してください。

相続年のどの取引を申告に含めるか

相続年に自分の申告へ含める取引の範囲は、自分が課税事業者となった理由によって異なります。

  • 相続特例により相続年から課税事業者となる場合:相続があった日の翌日から、その年12月31日までの自分の取引を対象とします。被相続人が死亡するまでの取引は、被相続人側の申告の対象であり、自分の申告へ混ぜません。
  • 相続前から自分自身が課税事業者だった場合:相続日の翌日だけを課税開始日と決めつけず、自分自身の課税期間全体について、既存の自分の事業と、承継した事業の取引をあわせて集計します。

いずれの場合も、被相続人の取引と自分の取引を帳簿上で分けて記録しておくことが、集計と申告の基本になります。

どの計算方式で申告するか

相続したという理由だけで、税額の計算方式が一律に変わるわけではありません。自分に適用できる方式を、次の観点から確認してください。

一般課税

簡易課税等を適用しない場合は、一般課税で計算します。相続を理由に、一般課税の計算方法自体が別の方式へ変わることはありません。

簡易課税

被相続人が簡易課税制度選択届出書を提出していたとしても、その効力は相続人へ当然には及びません。自分自身について簡易課税が適用できるか、相続年から適用するための特例が使えるか、基準期間の課税売上高が基準以下かなどを確認する必要があります。

簡易課税の詳細な確認方法は、「相続で事業を引き継いだときの消費税の簡易課税制度を確認する」で扱います。

2割特例

2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者となった事業者向けの経過措置であり、相続によって課税事業者となっただけで当然に使えるものではありません。

相続による納税義務免除の特例で事業者免税点制度の適用が制限される課税期間は、原則として2割特例の対象外となります。ただし、インボイス登録が相続日以前であり、他の制限事由がない場合には2割特例を適用できる旨の注記が国税庁のQ&Aにあります。相続があれば2割特例が一律に使える、あるいは一律に使えないと決めつけず、自分の状況を対象年分の公式情報で確認してください。

2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間を対象とする経過措置です。個人事業者の場合、令和8年分までの適用可能性を確認します。

3割特例

令和8年度税制改正により、個人事業者について、令和9年分・令和10年分の消費税申告に3割特例が設けられています。3割特例は令和8年分から使える制度ではなく、対象年分が異なります。ご自身が申告する年分がどちらに当たるかを確認したうえで、2割特例・3割特例・一般課税・簡易課税のいずれに該当するかを確認してください。

3割特例の詳細な要件や様式は、公開時点の最新情報を国税庁の案内で確認してください。

届出・登録状態の確認

被相続人の課税事業者選択届出書、課税期間特例選択届出書、簡易課税制度選択届出書、インボイス発行事業者の登録は、いずれも相続人へ当然に引き継がれるものではありません。被相続人のインボイス登録番号を、恒久的に自分の登録番号として使い続けることもできません。自分自身の届出・登録状況を、対象年分の公式情報で確認してください。

必要なもの

申告にあたって、少なくとも次を準備対象として整理してください。

  1. 相続人本人の納税地・氏名・個人番号等
  2. 対象となる課税期間
  3. 自分が課税事業者となる理由を確認できる資料・記録
  4. 相続日・事業承継日を確認できる情報
  5. 被相続人と自分の取引を分けた帳簿
  6. 対象期間の課税売上げ・非課税売上げ等の集計
  7. 対象期間の課税仕入れ・経費等の集計
  8. インボイス・請求書・領収書等の必要な保存書類
  9. 中間納付がある場合はその金額
  10. 自分に適用する計算方式を確認できる届出・登録状況
  11. 対象年分・計算方式に対応する消費税確定申告書
  12. 申告書第二表
  13. 一般課税・簡易課税・2割特例・3割特例等に対応する付表・計算表
  14. 還付申告となる場合の必要明細書
  15. e-Tax利用時の認証・利用環境、または書面提出に必要な準備

相続があったからといって、被相続人の申告に使う付表7を、相続人本人の申告に必ず添付するわけではありません。地域や利用環境によって準備するものが変わる場合があるため、不明な点は所轄の税務署へ確認してください。

申告書を作成する

申告書の作成は、次の順序を基本として進めてください。

  1. 申告主体が自分であることを確認する。
  2. 自分の納税義務を確認する。
  3. 自分の課税期間を確認する。
  4. 相続年の場合、課税対象となる自分の取引期間を確認する。
  5. 被相続人の取引と自分の取引を分ける。
  6. 自分に適用する計算方式を確認する。
  7. 対象期間の売上・仕入れ等を集計する。
  8. 対象年分・方式に合う申告書・付表等を選ぶ。
  9. 税額を計算する。
  10. 中間納付額等を反映する。
  11. 納付税額・還付税額・0円等の結果を確認する。
  12. 提出前に対象期間・名義・計算方式・添付書類を再確認する。
  13. 提出する。
  14. 受付・提出記録を保存する。
  15. 納付または還付確認へ進む。

申告書の提出と、税額の納付は別の完了状態です。提出しただけで納付まで完了したとは限りません。

提出方法

提出方法には、少なくとも次があります。

  • e-Tax
  • 書面の送付
  • 税務署等への持参(受付方法は公開時点の最新案内で確認してください)

方法を選ぶ際は、少なくとも次の4つの観点で比較してください。

比較軸 e-Tax 書面
提出場所 オンライン 郵送・窓口等
事前準備 利用環境・認証等 印刷・署名等の現行要件
完了確認 受信通知等 発送・受付記録等
向いている人 電子申告環境がある人 書面で確認しながら提出したい人等

具体的な操作手順や対応様式は、対象年分のe-Tax案内を優先して確認してください。

期限・いつまでに

通常の暦年課税期間の場合

個人事業者で、12月31日の属する課税期間について申告する場合、消費税の確定申告・納付期限は翌年3月31日までです。

被相続人の死亡時申告に適用される「相続の開始を知った日の翌日から4か月以内」という期限を、相続人本人の通常の申告期限として使うことはできません。

課税期間特例を適用している場合

1か月または3か月の課税期間特例を適用している場合は、原則として、課税期間終了日の翌日から2か月以内が申告・納付の期限となります。

自分の課税期間がどちらに当たるか分からない場合は、「どの課税期間を申告するか確認する」で先に確認してください。

期限が休日にあたる場合

期限が土曜・日曜・祝日等にあたる場合の具体的な取り扱いは、国税庁の現行案内で確認してください。対象年分の暦による具体的な日付は、申告時点の最新情報で再確認してください。

提出先

相続人本人の消費税確定申告は、相続人本人の納税地を所轄する税務署へ提出します。

被相続人の死亡時申告の提出先と、機械的に同じとは限りません。業務センターへの送付が対象となる場合等、現行の取り扱いは公開時点の国税庁案内で確認してください。

状況別

同じ「相続人本人の申告」という責任範囲の中で、対応が分かれる状況を整理します。自分に当てはまる状況を確認してください。

A.相続前は事業をしておらず、相続特例で相続年から課税となる場合

相続があった日の翌日以後の自分の課税取引を中心に集計します。被相続人の死亡までの取引を、自分の申告へ混ぜないようにしてください。

B.相続前から事業をしていたが免税事業者だった場合

自分の既存事業と承継した事業をあわせて、納税義務が生じる時点以後の自分の取引を確認します。相続特例以外に課税事業者となる理由がないかもあわせて確認してください。

C.相続前から自分自身が課税事業者だった場合

相続日の翌日だけを課税開始日と決めつけません。自分自身の課税期間全体について、既存事業と承継後の事業の取引を集計します。

D.被相続人が簡易課税だった場合

被相続人の簡易課税制度選択届出書の効力は、自分へ当然には及びません。自分自身の簡易課税の適用可否を確認してください。

E.被相続人が課税期間特例を使っていた場合

被相続人の届出の効力は自分へ及びません。自分自身の課税期間を確認してください。

F.被相続人がインボイス発行事業者だった場合

みなし登録期間と、自分自身の登録状況を確認します。インボイスの登録に関する取り扱いと、消費税確定申告の計算方式を混同しないようにしてください。

G.2割特例を使いたい場合

相続特例により免税点制度の適用が制限されることだけで課税事業者となる場合、2割特例の適用が制限されることがあります。登録時期等による例外もあるため、対象年分の国税庁のフローチャートやQ&Aで確認してください。

H.令和9年・10年分で3割特例を検討する場合

個人事業者であること、基準期間、インボイス登録等の現行要件を確認します。相続による納税義務との関係は、対象年分の公式情報で確認してください。

I.複数相続人・遺産未分割の場合

誰がどの事業を承継したか、それによって納税義務の判定がどうなるかを先に確認します。自分の申告対象となる事業・取引を、推測で確定しないようにしてください。

J.課税期間特例を使っている場合

暦年申告の3月31日という期限を機械的に適用せず、自分の各課税期間とそれに対応する期限を確認してください。

よくある間違い

申告を進める際、次のような間違いが起こりやすいため注意してください。

  1. 被相続人の死亡時申告と、相続人本人の申告を同じ申告だと思ってしまう。
  2. 相続人本人の申告にも、死亡時の4か月期限を使ってしまう。
  3. 相続人本人の申告を、被相続人の名義で行ってしまう。
  4. 相続年は必ず1月1日から全部課税されると思い込む。
  5. 相続特例で課税となる場合に、相続日前の免税期間の取引まで課税取引として計算してしまう。
  6. 相続前から自分が課税事業者だったのに、相続日の翌日からだけを申告対象にしてしまう。
  7. 被相続人の売上・仕入れを、相続人本人の申告へそのまま混ぜてしまう。
  8. 被相続人の簡易課税制度選択届出書が自動的に引き継がれると思い込む。
  9. 被相続人の課税期間特例が自動的に引き継がれると思い込む。
  10. 被相続人の課税事業者選択届出書が自動的に引き継がれると思い込む。
  11. 被相続人のインボイス登録番号を、恒久的に自分の登録番号として使えると思い込む。
  12. 相続で課税事業者になれば2割特例を必ず使えると思い込む。
  13. 逆に、相続があれば2割特例はどのような場合でも使えないと思い込む。
  14. 令和9年・10年分の3割特例を、令和8年分へ前倒しして使ってしまう。
  15. 簡易課税と一般課税の申告書・付表を取り違える。
  16. 課税期間特例を使っているのに、暦年申告の期限だけを見てしまう。
  17. 申告書を送信・提出しただけで、納付も完了したと思ってしまう。
  18. チェックリストや関連記事だけで、新しい制度条件を補おうとしてしまう。

注意点

  1. 相続による納税義務の判定と、確定申告書の作成は別の段階です。
  2. 「課税期間」と「課税事業者となる期間」は同じ意味の言葉ではありません。
  3. 被相続人と相続人は、別の事業者として申告を整理します。
  4. 相続年の取引の帰属は、死亡前・承継後を帳簿上でも区別してください。
  5. 被相続人の各種届出の効力は、相続人へ当然には及びません。
  6. 2割特例・3割特例は、単なる低税率の制度ではなく、適用要件のある税額計算上の経過措置です。
  7. 令和8年度税制改正による3割特例は、令和9年・10年分の個人事業者の申告に関する将来年分の情報として区別してください。
  8. e-Taxの対応様式・操作方法は、対象年分によって変わることがあります。
  9. 還付となる場合は、還付申告に必要な明細書等を確認してください。
  10. 申告と納付は、別の完了状態として確認してください。

判断できない場合

自分だけで判断できない場合は、税務署等へ確認してください。確認する際は、少なくとも次の12点を整理しておくと、確認がスムーズになります。

  1. 自分は当該年・課税期間について課税事業者か
  2. 課税事業者となった理由は相続特例か、それ以外か
  3. 相続年のどの日から自分の取引が課税対象となるか
  4. 自分の課税期間は暦年か、1か月・3か月か
  5. 被相続人の取引と自分の取引の区切り
  6. 共同相続・未分割の場合の事業承継の範囲
  7. 自分の簡易課税制度選択届出書の効力
  8. 自分の課税期間特例届出書の効力
  9. 自分のインボイス登録・みなし登録期間
  10. 2割特例または3割特例の適用可否
  11. 対象年分で使う申告書・付表・計算表
  12. 自分の申告期限・提出先・e-Tax対応方法

「詳しくは税務署へ確認してください」というだけで終わらせず、上記の具体的な確認軸を持って相談窓口へ進んでください。

チェックリスト

申告を進める前後に、次の項目を確認してください。

対象確認

期間確認

計算方式

集計・書類

提出

提出後

相談先

中心となる相談先は、相続人本人の納税地を所轄する税務署です。

必要に応じて、国税局電話相談センター等、国税庁公式の相談窓口も利用できます。

相談する際は、次の情報を整理しておくと、確認がスムーズになります。

  • 被相続人の氏名・死亡日
  • 相続日を確認できる情報
  • 事業承継の内容
  • 相続人本人の事業開始時期
  • 相続前の課税・免税状態
  • 被相続人・相続人の基準期間の課税売上高
  • 自分の簡易課税・課税期間特例・課税選択の届出状況
  • インボイス登録状況
  • 共同相続・遺産分割の状況
  • 確認したい対象年・課税期間

公式リンク

制度・法律・最新情報を確認する際は、次の公式情報源を確認してください(URLは公開準備工程で設定します)。

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