相続で事業を引き継いだときの消費税の納税義務を確認する
概要
個人事業者が死亡し、その事業の全部または一部を相続によって引き継いだ場合、消費税の納税義務の判定には、通常の基準期間による判定に加えて、相続を理由とする特例(相続特例)が関係します。
この記事は、相続後の消費税制度をすべて解説するものではありません。中心となるのは、被相続人の事業を引き継いだことで、自分の消費税の納税義務判定がどう変わるかという点です。
相続特例は、相続があった年、その翌年、翌々年で計算方法が異なります。また、相続特例だけで免税・課税が決まるわけではなく、相続人自身の基準期間の課税売上高や、課税事業者選択、インボイス登録などの事情も別途確認する必要があります。
なお、被相続人の死亡年分の消費税確定申告そのもの、相続税の申告・納付、所得税の準確定申告、届出書の具体的な提出手順などは、この記事の主な範囲には含みません。
このページで分かること
- 相続で事業を引き継いだ場合に、消費税の納税義務判定へ相続特例がどう関わるか
- 相続があった年・翌年・翌々年で、それぞれ何を確認すればよいか
- 1,000万円の基準に使う課税売上高を誰のどの期間から確認するか
- 共同相続や遺産未分割の場合に注意すること
- 被相続人が出していた届出やインボイス登録が、そのまま相続人に引き継がれるわけではないこと
- 相続特例以外の理由で課税事業者になる可能性があること
- 自分で判断できない場合に、どこで何を確認すればよいか
対象読者
主な対象読者は次のとおりです。
- 個人事業者だった人が死亡し、その事業の全部または一部を相続によって引き継いだ人
- 自分自身はこれまで免税事業者だった人、またはこれまで事業をしていなかった人
- 「被相続人が課税事業者だったから、自分も自動的に課税事業者になるのか」と迷っている人
- 相続があった年だけでなく、翌年・翌々年の判定方法も確認したい人
もともと自分でも事業をしていた相続人も、補助的な対象として含みます。
更新日
更新日:2026年10月1日
まず確認すること
本文を読む前に、次の3点を確認します。
- 被相続人の事業を、相続後も全部または一部続けているか
- 消費税の納税義務を判定したい年が、相続があった年・翌年・翌々年・それ以後のどれか
- 相続人が自分一人か、複数いるか
相続で事業を引き継いだ場合の消費税の考え方
消費税の納税義務は、通常、相続人自身の基準期間(原則として前々年)における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定します。
被相続人の事業を相続で引き継いだ場合は、この通常の判定に加えて、消費税法上の相続特例が関わります。相続特例は、相続人自身が通常の基準期間の判定では免税事業者になる場合でも、一定の条件を満たすと納税義務を免除しない、という特例です。
相続特例の内容は、判定する年によって異なります。次の表は、判定する年ごとの主な数字と条件を整理したものです。
| 判定する年 | 主に使う数字 | 相続特例で免税されない主な条件 | 対象期間 |
|---|---|---|---|
| 相続があった年 | 被相続人のその年の基準期間の課税売上高 | 1,000万円を超える | 原則、相続があった日の翌日〜12月31日 |
| 翌年 | 相続人+被相続人の対応する基準期間の課税売上高 | 合計が1,000万円を超える | その年全体 |
| 翌々年 | 相続人+被相続人の対応する基準期間の課税売上高 | 合計が1,000万円を超える | その年全体 |
| 3年後以降 | 原則として相続人自身の通常判定 | 通常の納税義務判定による | その年全体 |
この表を読むときの注意点は次のとおりです。
- この表は相続特例の中心部分を整理したものであり、相続人自身が別の理由で課税事業者になる場合を除外しません。
- 複数相続人がいる場合、遺産分割の状況によって別途確認が必要です。
- 基準は「1,000万円以上」ではなく「1,000万円を超える」で統一しています。
「事業を承継した」の意味
相続特例の対象になるのは、単に被相続人の財産を相続しただけの場合ではありません。
対象になるのは、被相続人が行っていた事業の全部または一部を継続して行うため、その事業に関係する財産の全部または一部を相続した場合です。財産を相続しても事業を継続しない場合は、この意味での事業承継には当たりません。
この記事で扱う相続特例は、相続および包括遺贈によって事業を承継した場合が対象です。特定遺贈または死因贈与によって事業を承継した場合は、この相続特例の対象にはなりません。相続・包括遺贈と、特定遺贈・死因贈与を混同しないよう注意してください。
相続があった年の納税義務
相続があった年の納税義務は、次の考え方で判定します。
- 相続人自身が、通常の基準期間の判定では免税事業者になる場合でも、被相続人のその年の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されません。
- 被相続人の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、相続特例だけを理由としては納税義務は生じません。
- ただし、相続人自身が別の理由(課税事業者選択やインボイス登録など)で課税事業者になっている場合は、相続特例の結果にかかわらず免税にはなりません。
免除されなくなる期間
相続があった年について、「その年の1月1日から12月31日まですべてが相続特例で課税になる」わけではありません。
相続特例によって納税義務が免除されなくなる期間は、原則として相続があった日の翌日からその年の12月31日までです。相続があった日以前の期間は、この特例の対象に含まれません。
例:2026年に相続があり、被相続人の2024年(相続があった年の対応する基準期間)の課税売上高が1,200万円だったとします。この場合、相続人自身が通常の判定で免税事業者になる場合でも、原則として相続があった日の翌日から2026年12月31日まで、消費税の納税義務は免除されません。この例は説明のためのものであり、実際の結論は本人の状況で確認する必要があります。
相続があった年の翌年の納税義務
相続があった年の翌年は、相続があった年とは異なる計算方法で判定します。
相続人自身の基準期間における課税売上高と、被相続人の対応する基準期間における課税売上高を合計します。この合計額が1,000万円を超える場合は、相続特例により納税義務は免除されません。
例:2026年に相続があり、2027年について判定するとします。対応する基準期間の課税売上高が、相続人400万円、被相続人700万円だった場合、合計は1,100万円となり、相続特例による判定の対象になります。この例は説明のためのものです。
相続があった年の翌々年の納税義務
相続があった年の翌々年も、翌年と同様の考え方で判定します。
相続人と被相続人の対応する基準期間の課税売上高を合計し、合計額が1,000万円を超える場合は、納税義務は免除されません。
例:相続人の対応する基準期間の課税売上高が400万円、被相続人が600万円で、合計がちょうど1,000万円だった場合、「1,000万円を超える」には該当しません。ただし、相続特例による判定に該当しない場合でも、相続人自身に別の課税要因がないかは別途確認する必要があります。この例は説明のためのものです。
3年後以降はどうなるか
相続があった年から数えて3年後以降は、消費税法上の「相続があった年・翌年・翌々年」という特例期間から外れます。そのため、原則として相続人自身の通常の納税義務判定へ戻ります。
ただし、課税事業者選択やインボイス登録など、相続特例以外の理由で納税義務が生じる場合は、それぞれの規定に従います。相続特例の対象期間が終わっても、消費税の納税義務そのものがなくなるとは限りません。
判定に使う課税売上高を確認する
相続特例による判定では、次の課税売上高を確認します。
- 判定したい年に対応する、相続人自身の基準期間の課税売上高
- 判定したい年に対応する、被相続人の基準期間の課税売上高
相続があった年は被相続人側の基準期間売上高が中心の数字になり、翌年・翌々年は相続人と被相続人の対応する基準期間の課税売上高を合計した数字が中心になります。いずれの年についても、判定基準は「1,000万円以上」ではなく「1,000万円を超える」かどうかです。
相続人自身が基準期間に事業をしていなかった場合、「事業をしていなかったから必ず免税になる」とは限りません。相続特例は、基準期間に事業を行っていなかった相続人も対象に含み得ます。この場合も、被相続人側の課税売上高を確認して判定します。
なお、国税庁の「消費税課税事業者届出書(特定期間用)の記載要領等」では、相続、合併または分割等があった場合、特定期間の課税売上高等による納税義務判定を行う必要はないとされています。この記事で扱う相続特例の判定では、基準期間の課税売上高を確認します。
状況別
同じ相続特例の判定の中でも、相続人自身の状況によって確認する内容が変わります。
相続前に自分も事業をしていた場合
相続前から自分自身の事業を行っていた場合は、相続特例による判定に加えて、相続人自身の通常の基準期間による判定も確認します。相続特例で免税と判定されても、自分自身の通常判定で課税事業者になる場合は、免税にはなりません。
相続前は事業をしていなかった場合
相続前に事業をしていなかった場合も、相続特例の対象から外れるわけではありません。被相続人の基準期間の課税売上高(翌年・翌々年は相続人自身の分と合算した金額)を確認して判定します。
被相続人の事業の一部だけを引き継いだ場合
被相続人が複数の事業や事業場を持っており、その一部だけを引き継いだ場合は、どの事業・どの財産を承継したかによって、事業承継に当たるかどうかの判断が変わることがあります。この判断が難しい場合は、税務署等へ確認します。
相続人が複数いる場合
相続人が複数いる場合、実際には特定の一人が事業を行っていても、遺産分割が実行されるまで事業承継者が確定しないものとして、共同承継として扱われる場合があります。
この場合、被相続人側の課税売上高については、法定相続分等に応じた割合を用いる取扱いがあります。
共同相続・遺産未分割の具体的な按分方法や、複数の相続分・事業場別の承継関係は、個別の事情によって結果が変わりやすいため、この記事では簡単な注意にとどめます。詳しい按分方法や個別の事情については、税務署等で確認します。
被相続人の届出はそのまま引き継がれない
被相続人が生前に提出していた次の届出は、相続人へそのまま効力が及ぶものではありません。
- 消費税課税事業者選択届出書
- 消費税課税期間特例選択等届出書
- 消費税簡易課税制度選択届出書
これらの制度の適用を相続人が受けたい場合は、相続人自身が新たに届出等を行う必要があります。被相続人が提出済みだったことを理由に、相続人が自動的に同じ制度の適用を受けている、とは判断できません。
被相続人がインボイス発行事業者だった場合
被相続人が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)だった場合、相続人がその登録をそのまま恒久的に引き継ぐわけではありません。相続人が登録を受けるには、原則として自ら登録申請を行う必要があります。
一方で、一定期間、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす措置があります。そのため、「被相続人が死亡した瞬間から、相続人はインボイスを一切発行できなくなる」とも言えません。
みなし措置の具体的な期間や適用条件、相続人自身のインボイス登録申請の詳細な手順は、この記事の中心範囲には含みません。被相続人の死亡日や登録状態を踏まえた個別の確認が必要です。
相続特例以外でも課税事業者になることがある
相続特例による判定だけを確認して、「免税」と結論付けることはできません。相続特例に該当しない場合でも、少なくとも次を確認します。
- 相続人自身の基準期間における課税売上高
- 消費税課税事業者選択届出書による課税事業者選択の有無
- 適格請求書発行事業者としての登録の有無
- その他、免税点制度が適用されない特例に該当していないか
相続特例以外の一般的な納税義務判定の詳細は、この記事の範囲には含みません。
課税事業者になると分かったら
相続特例やその他の理由により課税事業者になると判断した場合は、次の届出・手続きへ進みます。
相続等により課税事業者となる場合は、消費税課税事業者届出書(基準期間用)に、国税庁所定の「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」を添付する取扱いがあります。提出方法の細かい手順は、この記事では扱いません。
課税事業者になると判断した後は、必要に応じて次を確認します。
- 消費税課税事業者届出書を提出する
- 消費税の確定申告を行う
- 消費税を納付する
- 必要な場合は、適格請求書発行事業者の登録申請を行う
- 被相続人がインボイス発行事業者だった場合は、適格請求書発行事業者の死亡届出書を提出する
よくある間違い
相続で事業を引き継いだときの消費税の判定では、次のような誤解が起こりやすい点です。
- 被相続人が課税事業者だったら、相続人も自動的に同じ状態をそのまま引き継ぐと考えてしまう。
- 相続した年も、1月1日から1年分すべてが相続特例で課税になると考えてしまう。
- 相続人自身の基準期間の売上だけで判定すればよいと考えてしまう。
- 相続があった年・翌年・翌々年で、同じ計算方法を使うと考えてしまう。
- 1,000万円「以上」で課税事業者になると誤解してしまう。
- 相続人が相続前に事業をしていなければ、必ず免税になると考えてしまう。
- 財産を相続しただけで、必ず「事業を承継した」に当たると考えてしまう。
- 被相続人の消費税簡易課税制度選択届出書の効力が、そのまま相続人へ移ると考えてしまう。
- 被相続人の消費税課税事業者選択届出書の効力が、そのまま相続人へ移ると考えてしまう。
- 被相続人の消費税課税期間特例選択等届出書の効力が、そのまま相続人へ移ると考えてしまう。
- 被相続人のインボイス登録を、相続人が恒久的にそのまま使えると考えてしまう。
- 反対に、被相続人が死亡した翌日からインボイス上の経過措置が一切ないと考えてしまう。
- 複数の相続人がいる場合でも、実際に事業を動かしている一人だけを、最初から承継者として判定すればよいと考えてしまう。
- 相続特例で免税と判定されたら、インボイス登録や課税事業者選択など、他の課税要因を確認しなくてよいと考えてしまう。
判断できない場合
次の事項は個別の事情によって結果が変わりやすいため、この記事では断定せず、必要に応じて税務署・国税庁の資料等で確認します。
| 事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 事業承継に当たるか微妙な場合 | どの事業を継続し、どの財産を承継したか |
| 共同相続の場合 | 相続人の人数、法定相続分等、遺産分割の実行時点 |
| 複数事業・事業場の分割承継 | どの事業・事業場を誰が承継したか |
| 相続前後の課税売上高の算定 | 対応する基準期間、課税・非課税取引の区分 |
| インボイスの経過措置 | 被相続人の登録状態、死亡日、相続人の登録申請日 |
| 各種届出について | 相続人が今後どの制度を選択するか、提出済み届出の有無 |
チェックリスト
公式リンク
次の国税庁・国税局の一次情報で、相続時の消費税の納税義務判定と届出を確認できます。
- 国税庁 No.6602「相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について」:相続があった年・翌年・翌々年の判定、事業承継の意味、共同相続、被相続人の届出・インボイス登録との関係を確認できます
- 国税庁 No.6501「納税義務の免除」:消費税の納税義務免除の基本を確認できます
- 国税庁 消費税基本通達 第1章第5節「納税義務の免除の特例」:相続による事業承継時の取扱いを確認できます
- 国税庁 D1-7「消費税課税事業者届出手続(基準期間用)」:相続等により課税事業者となる場合の届出と付表を確認できます
- 国税庁 D1-8「消費税課税事業者届出手続(特定期間用)」:特定期間用届出の対象と記載要領を確認できます
- 国税庁「消費税課税事業者届出書(特定期間用)の記載要領等」:相続・合併・分割等があった場合は特定期間による納税義務判定が不要であることを確認できます
- 東京国税局「前年に相続があった場合の共同相続人の消費税の納税義務の判定について」:共同相続・遺産分割前の判定に関する取扱いを確認できます
あなたの場合はこちら
判定の結果によって、この記事の範囲を超えて別途確認・手続きが必要になる場合があります。
- 被相続人が適格請求書発行事業者だった場合は、死亡に関する届出が必要になることがあります。
- 相続人自身がインボイス発行事業者としての登録を新たに受けたい場合は、別途登録申請が必要になります。
- 相続特例により課税事業者になると判断した場合は、消費税課税事業者届出書の提出が必要になります。
これらの手続きの詳しい内容や提出方法は、この記事の中心範囲には含みません。判断できない場合は、税務署等で確認します。