相続により消費税の課税事業者となったことを届け出る
概要
被相続人の事業を相続により引き継いだ場合、相続特例によって消費税の納税義務が免除されなくなる課税期間が生じることがあります。このとき必要になるのが、「課税事業者になるための申請」ではなく、すでに課税事業者となった事実を税務署へ知らせる届出です。
この記事は、相続特例による消費税の納税義務の判定がすでに終わり、課税事業者となる課税期間があると分かった相続人を主な対象とします。判定そのものの計算方法は扱いません。
案内するのは、使用する届出書と添付書類の組み合わせ、提出時期、提出先、提出方法、記載のために準備する情報、共同相続・分割相続がある場合の注意点です。届出を提出し、提出記録を保存するところまでを、この記事の案内の完了地点とします。
このページで分かること
- 相続により課税事業者となったことを届け出る場面かどうか
- 「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」と「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」を組み合わせて使うこと
- 届出をいつ提出するか
- 届出書・付表の記載に向けて準備する情報
- e-Tax・持参・送付という提出方法の違い
- 提出先の考え方
- 提出後に確認しておくべきこと
- 共同相続・分割相続がある場合に注意すべきこと
対象読者
主に次のような方を対象としています。
- 被相続人の事業の全部または一部を、相続により引き継いだ個人
- 相続特例の判定により、相続のあった年・翌年・翌々年のいずれかについて、消費税の納税義務が免除されないと判断した相続人
- 「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」だけでよいのか、相続用の付表が必要なのか確認したい方
- 共同相続や分割相続があり、付表の記載や自分の届出の関係を確認したい方
このページは、相続特例の判定がすでに終わっている方を中心の対象とします。まだ判定を終えていない場合は、後述の案内先を確認してください。
更新日
更新日:2026年10月1日
まず確認すること
次のいずれかに当てはまる場合は、このページより先に確認すべき内容がある可能性があります。
- 相続特例によって課税事業者になるかどうかをまだ判定していない方は、相続で事業を引き継いだときの消費税の納税義務を確認するを先に確認してください。
- 被相続人が課税事業者のまま死亡し、被相続人側の届出を確認したい方は、被相続人に関する死亡届出の手続きを確認してください。
- 被相続人が適格請求書発行事業者だった方は、その死亡に関する届出を別途確認してください。
- 相続人自身がインボイス発行事業者としての登録を受けたい方は、登録申請の手続きを別途確認してください。
- 課税事業者となった後の消費税の申告や納付を行いたい方は、それぞれの手続きを別途確認してください。
これらに該当せず、相続特例により自分が課税事業者になると判断済みの方は、このまま読み進めてください。
相続で課税事業者となったときの届出とは
被相続人の事業を相続により引き継いだ相続人は、消費税法上の相続特例により、相続のあった年・翌年・翌々年について納税義務が免除されない課税期間が生じることがあります。
この届出は、課税事業者になるために選ぶ任意の手続きではありません。相続特例の判定によって、すでに課税事業者となった事実を税務署へ知らせるための届出です。「届出を提出したことで課税事業者になる」という関係ではないため、この点を混同しないようにしてください。
相続特例で課税事業者となる場合には、通常の「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」に加えて、「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」をあわせて提出します。付表は単独の届出書ではなく、主届出書に添付する書類という位置付けです。
この届出をするか確認する
次の10の軸で、自分がこの届出の対象かどうかを確認できます。それぞれの軸は個別に確認してください。
| 確認する軸 | 読者が確認すること | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 1. 事業承継 | 被相続人の事業の全部または一部を、相続により継続するために承継したか | 承継していない場合は、この記事の中心的な対象ではありません |
| 2. 課税事業者化の理由 | 相続特例により納税義務が免除されないと判断したか | 判定そのものは、判定を行う別記事に委ねます |
| 3. 手続の性質 | 課税事業者になるための選択申請か | 申請ではなく、課税事業者となった事実の届出です |
| 4. 主届出書 | どの届出書を使うか | 消費税課税事業者届出書(基準期間用) |
| 5. 添付付表 | 相続等付表が必要か | 相続により課税事業者となる場合は添付します |
| 6. 提出時期 | いつまでに出すか | 事由が生じた場合、速やかに提出します |
| 7. 提出先 | どこへ出すか | 届出者である相続人の納税地を所轄する税務署長です |
| 8. 提出方法 | どう出すか | e-Tax、書面持参、書面送付のいずれかです |
| 9. 共同相続等 | 複数相続人・分割相続があるか | 付表の記載や納税義務の判定に影響し得るため、事実関係を整理します |
| 10. 提出後 | 届出だけで終わるか | 課税期間の消費税申告・納付等を別途確認します |
あわせて、次に当てはまる場合は、この届出の中心的な対象ではありません。
- 特定遺贈または死因贈与だけを理由に、相続特例が当然に適用されると考えている場合
- 被相続人の事業を承継していない場合
- 任意に課税事業者を選択するための「消費税課税事業者選択届出書」を出したい場合
- 特定期間の課税売上高だけを理由に課税事業者となる場合
これらに該当する可能性がある場合は、事実関係を確認してから、対応する手続きへ進んでください。
使用する書類
相続特例により課税事業者となる場合も、使用する主届出書は次のとおりです。
消費税課税事業者届出書(基準期間用)
これに、次の付表をあわせて添付します。
相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表
国税庁は、相続・合併・分割等により課税事業者となる場合、この付表を課税事業者届出書に添付するよう案内しています。付表だけを単独で提出しても、この届出は成立しません。
なお、相続特例による課税事業者化は、一般的な「特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合」の届出とは別の場面です。相続の場合の中心手続きは、基準期間用の届出書と相続等付表の組み合わせであり、特定期間用の届出書ではないことに注意してください。
期限・いつまでに
相続特例により課税事業者となる場合の届出は、事由が生じた場合、速やかに提出します。
「○日以内」のような固定の日数は、このページでは案内しません。
次の点に注意してください。
- 「速やかに」という提出時期と、消費税の確定申告のような法定の申告期限を混同しないでください。
- 届出の提出が遅れたとしても、相続特例による課税事業者化そのものが、届出を提出した日から始まるわけではありません。
- この届出は課税事業者になるための選択届出ではないため、「提出すれば課税事業者になる」という関係ではありません。
準備するもの・確認する情報
届出書と付表の記載に向けて、少なくとも次の情報を準備しておきます。欄名や配置は変更されることがあるため、提出時は国税庁の最新様式・記載要領も確認してください。
届出者である相続人自身について
- 納税地
- 氏名
- 個人番号
- 適用開始課税期間
- その課税期間の基準期間
- 基準期間の総売上高・課税売上高など、主届出書で必要とされる情報
相続関係について
- 相続があったこと
- 被相続人の氏名
- 被相続人の納税地
- 被相続人の事業内容
- 分割相続の有無
- 共同相続・遺産分割の状況
- 被相続人の基準期間の課税売上高など、相続特例の判定に使用した情報
消費税課税事業者届出書(基準期間用)を作成する
主届出書には、届出者である相続人自身の納税地・氏名・個人番号のほか、課税事業者となる適用開始課税期間、その基準期間、基準期間の売上高等、様式で求められる情報を記載します。
相続特例により課税事業者となる場合であっても、使用する届出書自体は、基準期間用の届出書と同じものです。相続の事情を記載するための欄は、主届出書ではなく、次に説明する付表側で扱います。
具体的な欄の名称や配置、記入順序は、国税庁の現行様式・記載要領で確認してください。このページでは、記載前に準備しておく情報の種類を整理します。
相続等付表を作成する
相続により課税事業者となる場合は、主届出書に「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」を添付します。
付表には、被相続人に関する情報(氏名、納税地、事業内容、基準期間の課税売上高など)と、相続に関する情報(相続があったこと、分割相続の有無、共同相続・遺産分割の状況など)を記載します。これらは、前の見出しで整理した準備情報と対応しています。
付表には、分割相続の有無を確認する構造があります。共同相続や分割相続がある場合は、次の見出しの内容もあわせて確認してください。
現行の様式における具体的な欄名や記載順序は、提出時に国税庁の最新様式・記載要領で確認してください。
共同相続・分割相続の場合
相続人が複数いる場合、「最終的に事業を取得する人」と「制度上の判定や手続きの当事者」が、当然に一致するとは限りません。
遺産分割が実行されるまでの間の共同相続については、消費税に関する取扱い上、注意すべき点があります。相続等付表自体にも、分割相続の有無を確認する構造が設けられています。
このページでは、個別の遺産分割の内容から、誰がどの範囲で課税事業者になるかという法律判断までは行いません。次のような場合は、事実関係を整理したうえで、納税地を所轄する税務署等へ確認してください。
- 複数の相続人がいる
- 複数の事業場がある
- 分割相続があり、自分の届出内容が一つに定まらない
整理しておくとよい事実関係は、相続日、相続人の人数、被相続人の事業を誰がどの範囲で承継したか、遺産分割の実行時期、被相続人・相続人の基準期間の課税売上高、どの課税期間について届出を行うかです。
提出方法を選ぶ
届出書と付表は、次の3つの方法のいずれかで提出できます。それぞれの方法について、次の4つの軸を確認してください。
| 比較する軸 | e-Tax | 税務署へ持参 | 郵送 |
|---|---|---|---|
| 1. 作成・提出 | e-Taxソフト等の現行の手続きで作成・送信します | 現行の様式を作成して税務署へ持参します | 現行の様式を作成して郵送します |
| 2. 付表 | 主届出に相続等付表を添付して提出します | 主届出書と付表をあわせて提出します | 主届出書と付表をあわせて送付します |
| 3. 提出先 | 納税地を所轄する税務署長です | 納税地を所轄する税務署です | 納税地を所轄する税務署です |
| 4. 提出記録 | 受信通知等を保存します | 自分で提出日・提出書類を記録します | 発送記録・控えなどを保存します |
書面で提出する場合、控えに収受日付印が押されることを、当然の前提にはしないでください。
e-Taxで提出する
e-Taxを利用する場合は、e-Taxソフト等の現行の手続きにより、消費税課税事業者届出書(基準期間用)と相続等付表を作成し、送信します。送信後は、受信通知など、提出したことを確認できる記録を保存してください。
具体的な操作画面や利用できるソフトウェアの名称は、e-Taxの現行の案内にもとづきます。このページでは、e-Taxが相続の場合の届出・付表に対応した提出経路であることまでを案内します。
税務署へ持参する
書面で提出する場合は、消費税課税事業者届出書(基準期間用)と相続等付表を作成し、納税地を所轄する税務署へ持参します。
持参する場合は、提出日や提出した書類を自分で記録しておいてください。控えへの収受日付印の押印は、当然に受けられるものとして前提にしないでください。
郵送する
郵送で提出する場合も、消費税課税事業者届出書(基準期間用)と相続等付表をあわせて、納税地を所轄する税務署へ送付します。
郵送する場合は、発送記録や提出書類の控えなどを保存しておいてください。
提出先
この届出は、届出者である相続人の納税地を所轄する税務署長へ提出します。
被相続人の死亡届出書の提出先と混同しないでください。被相続人に関する届出と、相続人自身が課税事業者となったことの届出とは、別の手続きです。
このページでは、特定の税務署名や住所は示しません。国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」で、自分の納税地を所轄する税務署を確認したうえで提出してください。
提出後に確認すること
届出の提出は、手続きの完了ではありません。提出後は、次の内容を確認してください。
- e-Taxの受信通知、提出日、発送記録、提出書類の控えなどを保存する
- 課税事業者となる課税期間について、帳簿・請求書等の保存体制を確認する
- 消費税の確定申告が必要になることを確認する
- 納付税額が生じる場合の納付を確認する
- 簡易課税制度を利用する場合は、別途要件・届出を確認する
- 相続人自身が適格請求書発行事業者になる必要がある場合は、登録申請を確認する
- 被相続人が適格請求書発行事業者だった場合は、死亡届出やみなし登録の関係を別途確認する
判断できない場合
共同相続・分割相続で届出内容が一つに定まらない場合
相続日、相続人の人数、被相続人の事業を誰がどの範囲で承継したか、遺産分割の実行時期、事業場の数、被相続人・相続人の基準期間の課税売上高、どの課税期間について届出するかを整理したうえで、納税地を所轄する税務署等へ確認してください。
過去に課税事業者届出書を提出したことがある場合
すでに基準期間用または特定期間用の届出書を提出し、その後引き続き課税事業者である場合には、再提出が不要となる取扱いがあります。相続を契機に今回改めて提出が必要かどうか判断しにくい場合は、過去の届出書、課税事業者だった期間、相続日、今回の課税事業者化の根拠を整理して確認してください。
相続と異なる形で事業を引き継いだ場合
特定遺贈や死因贈与は、相続や包括遺贈と同一に扱いません。事実関係がはっきりしない場合は、承継の法的な形態を確認してください。
よくある間違い
次のような誤解に注意してください。
- 相続で事業を引き継いだ人は全員この届出を出すと思い込む
- この届出を提出することで初めて課税事業者になると考える
- 「消費税課税事業者選択届出書」と混同する
- 相続特例の判定をせずに届出書だけ作り始める
- 相続の場合も特定期間用の届出書を使うと思い込む
- 基準期間用の届出書だけを提出し、相続等付表を付け忘れる
- 相続等付表だけを単独の届出書として提出すればよいと考える
- 「速やかに」を固定の○日以内と決めつける
- 届出が遅れれば、それまで免税事業者のままだと考える
- 提出先を被相続人の納税地だけで決めてしまう
- 共同相続・分割相続でも、一人の状況だけで判定・記載できると考える
- 特定遺贈・死因贈与も相続特例と同じだと考える
- 被相続人の死亡届出書と、相続人が課税事業者となった届出を同じ手続きだと考える
- 被相続人がインボイス発行事業者だった場合の手続きを、この届出だけで終えられると考える
- e-Tax送信・書面提出後に、提出記録を残さない
- 届出を出せば消費税の申告・納付まで完了したと考える
チェックリスト
対象確認
書類確認
記載準備
提出
提出後
あなたの場合はこちら
状況に応じて、次のような手続きの確認が必要になることがあります。
- 被相続人が課税事業者のまま死亡した場合は、個人事業者の死亡届出書に関する手続き
- 被相続人が適格請求書発行事業者だった場合は、その死亡に関する届出手続き
- 相続人自身がインボイス発行事業者としての登録を受けたい場合は、登録申請の手続き
- 課税事業者となった課税期間の申告を行いたい場合は、消費税の確定申告の手続き
- 消費税を納付したい場合は、消費税の納付に関する手続き
それぞれの記事の公開状況によって、実際にリンクできる範囲は変わります。
相談先
次のような行動を行う際の窓口は、届出者である相続人の納税地を所轄する税務署です。
- 届出内容についての問い合わせ
- 共同相続・分割相続で届出内容が一つに定まらない場合の確認
- 過去の届出との関係についての確認
- 特定遺贈・死因贈与など、承継の形態についての確認
公式リンク
提出前は、次の国税庁・e-Taxの現行案内も確認してください。
- 国税庁「D1-7 消費税課税事業者届出手続(基準期間用)」:手続対象者、提出時期、提出方法、添付書類、提出先を確認できます
- 国税庁「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」:現行の主届出書を確認できます
- 国税庁「消費税課税事業者届出書(基準期間用)の記載要領等」:相続等で提出する場合、提出時期、記載事項、再提出が不要となる場合を確認できます
- 国税庁「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」:相続の場合の被相続人情報、分割相続の有無、基準期間の課税売上高等の欄を確認できます
- 国税庁「No.6602 相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について」:相続特例の前提となる納税義務を確認できます
- 国税庁「消費税基本通達 第1章第5節 納税義務の免除の特例」:相続による事業承継や共同相続等の取扱いを確認できます
- 国税庁「No.6629 消費税の各種届出書」:届出制度全体と提出時期を確認できます
- e-Tax「申請・届出手続(消費税(個人)関係)」:基準期間用の届出と相続等付表を電子手続で扱えることを確認できます
- 国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」:納税地から所轄税務署を確認できます