相続で事業を引き継いだときの消費税の簡易課税制度を確認する

概要

個人事業者だった人が亡くなり、その事業を相続によって引き継いだ場合、消費税の簡易課税制度をいつから使えるかは、被相続人が簡易課税を使っていたかどうかだけでは決まりません。

被相続人が提出していた「消費税簡易課税制度選択届出書」の効力は、相続人へそのまま引き継がれるものではなく、相続人は自分自身について適用条件と届出の状況を確認する必要があります。

相続があった年から簡易課税を選べるかどうかは、相続前に自分が事業をしていたか、被相続人が簡易課税を適用していたか、自分自身の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていたかなどによって分かれます。加えて、簡易課税を実際に適用するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることなど、簡易課税自体の要件も別途確認する必要があります。

この記事は、簡易課税制度選択届出書の提出操作そのものを最後まで案内するものではありません。中心的な論点は、相続で事業を引き継いだとき、簡易課税制度の選択をどの時点から行えるかです。

また、自分がそもそも消費税の課税事業者になるかどうかが分からない場合は、簡易課税を確認する前に、その点を先に確認する必要があります。


このページで分かること

  • 被相続人が使っていた簡易課税が自分にも当然に引き継がれるのか
  • 自分が簡易課税を使いたい場合、新たな届出が必要か
  • 相続があった年から簡易課税を使える可能性があるか
  • 相続年から使えない場合、いつから使える可能性があるか
  • 簡易課税を適用するための基準(5,000万円要件や提出制限)を別途確認する必要があるか
  • 自分の状況で判断できない場合、何を、どこへ確認すればよいか

対象読者

主な対象は、次のいずれかに当てはまる人です。

  • 個人事業者だった被相続人の事業を、相続により全部または一部引き継いだ人
  • 被相続人が簡易課税を使っていたため、自分にもそのまま引き継がれると考えている人
  • 相続があった年から簡易課税を使いたい人
  • 相続前は事業をしていなかった人
  • 相続前から自分でも個人事業をしていた人
  • 相続によって消費税の課税事業者となる可能性がある人

次の人も、関係する範囲で確認できます。

  • 自分自身がすでに簡易課税制度選択届出書を提出している人
  • インボイス登録など、相続以外の理由でも課税事業者となっている人

更新日

更新日:2026年10月2日


最初に確認すること

まず、次の点を押さえておきます。

  • 被相続人が提出していた簡易課税制度選択届出書の効力は、相続人へ引き継がれません。
  • 相続人が簡易課税を使いたい場合は、自分自身について適用条件と届出の状況を確認します。
  • 相続年から使えるかどうかは、「相続前に事業をしていたか」「被相続人が簡易課税を適用していたか」「自分自身が基準期間の課税売上高1,000万円超ですでに課税事業者になっているか」などによって分かれます。
  • 簡易課税を実際に適用するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることなど、簡易課税自体の要件も別途確認します。
  • 「被相続人が簡易課税だったから自動的に簡易課税になる」という理解、「相続した年は年末までに出せばよい」という理解は、いずれも正しくありません。

中心判断表

本文全体で確認する軸は、次の10項目です。省略や統合はせず、それぞれ個別に確認します。

判断軸 確認すること 記事での役割
1. 事業承継 被相続人の事業の全部または一部を相続により継続しているか 相続固有ルートの入口
2. 自分の納税義務 相続人自身がその課税期間に課税事業者となるか 簡易課税を使う前提
3. 相続前の事業 相続前に自分で事業をしていたか 相続年の期限分岐
4. 被相続人の簡易課税 被相続人が簡易課税を適用していたか 既存事業者の相続年特例判定
5. 自分の基準期間1,000万円判定 自分自身の基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、もともと課税事業者か 相続年特例の除外確認
6. 自分の既存届出 自分がすでに簡易課税制度選択届出書を提出しているか 重複・継続効の確認
7. 5,000万円要件 適用したい課税期間の基準期間の課税売上高が5,000万円以下か 簡易課税の基本適用条件
8. 提出制限 固定資産等により届出できない期間に該当しないか 適用不可・要公式確認
9. 適用開始時期 相続年からか、次の課税期間以後からか 記事の中心結論
10. 他制度との重なり インボイス、2割特例・3割特例等の別ルールが関係するか 別記事・公式確認への分岐

自分がそもそも消費税の課税事業者になるかが分からない場合は、この判断へ進む前に「相続で事業を引き継いだときの消費税の納税義務を確認する」の内容を先に確認してください。


被相続人の簡易課税は引き継がれない

被相続人の届出は相続人へ引き継がれない

被相続人が提出した消費税簡易課税制度選択届出書の効力は、相続により事業を承継した相続人には及びません。

したがって、次の事実だけでは、相続人が自動的に簡易課税になるわけではありません。

  • 被相続人が簡易課税だった
  • 被相続人が何年も簡易課税を使っていた

相続人が簡易課税を選択したい場合は、相続人自身について届出と適用条件を確認します。

相続人自身の既存届出は別に確認する

被相続人の届出が引き継がれないことと、相続人自身が以前から提出していた届出の効力は、別の問題です。

相続人が自分の事業についてすでに簡易課税制度選択届出書を提出している場合は、その自分自身の届出の状態を先に確認します。相続があったことを理由に、自分の既存届出まで無効になると一律に考えないでください。


相続年から簡易課税を選べるか

この記事の中心的な論点は、相続があった課税期間から簡易課税を選択できるかどうかです。ここでの判断は、相続前に自分が事業をしていたかどうかで大きく分かれます。

相続前に事業をしていなかった場合

事業を営んでいなかった相続人が、相続によって被相続人の事業を承継し、相続があった日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出した場合、その課税期間は、事業を開始した日の属する課税期間に該当する取扱いがあります。

したがって、他の適用条件を満たすことを前提に、相続があった年から簡易課税を選択できる可能性があります。

このルートでは、被相続人が簡易課税を使っていたかどうかは、必須の条件ではありません。

相続前から事業をしていた場合

相続人がすでに個人事業者である場合は、「相続があったから相続年中に出せばよい」とは単純にはなりません。

相続人が、簡易課税制度の適用を受けていた被相続人の事業を承継した場合には、一定の条件のもとで、相続があった日の属する課税期間中の提出により、その課税期間から簡易課税を選択できる取扱いがあります。

このルートでは、被相続人が簡易課税制度を適用していたかどうかが、重要な確認点になります。被相続人が簡易課税を適用していなかった場合は、相続だけを理由に、この相続年中提出の取扱いを使えるとは限りません。この場合は、後述する「相続年から使えない場合」の一般ルールや、他の期限特例を確認します。

相続人自身がもともと課税事業者だった場合

相続前から個人事業を行っており、相続があった課税期間の基準期間における自分自身の課税売上高が1,000万円を超え、その理由ですでに課税事業者に該当している場合は、上記の相続年の特別な取扱いには該当しません。

この場合は、通常の提出期限や、その他の適用可能な特例を別に確認します。「被相続人が簡易課税だった」という理由だけで、相続年中の提出が必ず認められるわけではありません。


相続年から使えない場合

相続年の特別な取扱いに該当しない場合は、通常の簡易課税制度選択届出のルールへ戻ります。

原則として、簡易課税の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、届出書を提出します。

したがって、相続が課税期間の途中で発生し、その時点で相続年から適用するための特別な取扱いにも、他の期限特例にも該当しない場合、通常はその相続年について、後から原則期限を満たすことはできません。この場合は、次の課税期間以後からの適用を確認します。

ただし、インボイス登録に伴う経過措置、2割特例・3割特例後の期限特例、災害等の特例など、別の期限ルールが関係する場合があります。「相続年から使えなければ必ず翌年から使える」と一律に断定せず、自分に関係する他の特例がないかも確認してください。


基準期間の課税売上高5,000万円を確認する

簡易課税制度は、届出書を提出しただけで常に適用できる制度ではありません。

簡易課税の適用を受けようとする課税期間について、基準期間における課税売上高が5,000万円以下であることを確認します。5,000万円を超える課税期間では、簡易課税を適用できません。

ここでの5,000万円の判定と、相続による納税義務の判定で使う1,000万円の基準は、別の判定です。

  • 相続で課税事業者になるかどうかの判定(1,000万円が関係する場面があります)
  • 課税事業者として簡易課税を使えるかどうかの判定(5,000万円が基準になります)

この二つを混同しないでください。届出書さえ提出すれば、5,000万円を超えていても簡易課税を使えるわけではありません。


相続人自身の既存届出を確認する

すでに自分自身で簡易課税制度選択届出書を提出している場合は、被相続人の届出の承継問題とは分けて、自分自身の既存届出の効力と、5,000万円要件などの基本要件を確認します。

自分の既存届出がある場合でも、適用したい課税期間の基準期間の課税売上高が5,000万円を超えていれば、その課税期間は簡易課税を適用できません。既存の届出があることと、実際にその課税期間で簡易課税を適用できることは、別に確認が必要です。


提出できない期間がないか確認する

調整対象固定資産や高額特定資産等の取得状況によっては、一定期間、簡易課税制度選択届出書を提出できない場合があります。

この記事では、提出制限に該当するかどうかの詳細な判定は行いません。次のいずれかに心当たりがある場合は、現行の国税庁の案内や税務署等で確認してください。

  • 近年に大きな設備投資や資産取得がある
  • 課税事業者を選択している
  • 高額特定資産等の取得に心当たりがある

また、相続人自身のインボイス登録や、2割特例・3割特例等によって、一般ルールとは異なる期限が使える場合があります。相続固有の取扱いと、これらの別の特例を混同せず、それぞれ個別に確認してください。


状況別

同じ「相続で事業を引き継いだ」場合でも、状況によって確認すべき点が異なります。

相続前は事業をしていなかった

相続があった年中の届出によって、相続年から簡易課税を選択できる可能性があります。

相続前から事業をしており、被相続人も簡易課税を適用していた

自分自身の基準期間の課税売上高などを確認し、相続年の特別な取扱いに入るかどうかを判定します。

相続前から事業をしていたが、被相続人は簡易課税を適用していなかった

相続があったことだけを理由に、相続年中提出の特別な取扱いを使えるとはしません。通常の提出期限や、他の特例を確認します。

相続前から事業をしており、自分自身の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていた

相続年の特別な取扱いには入りません。通常の提出期限や、他の特例を確認します。

自分自身がすでに簡易課税制度選択届出書を提出している

被相続人の届出の承継問題とは分けて、自分自身の既存届出の効力と、5,000万円要件などを確認します。

相続年は免税事業者となる

その年に簡易課税による税額計算が必要かどうかは、自分の納税義務の判定から確認します。将来の課税期間に備えて届出を検討する場合は、適用を開始したい時期を分けて確認します。

基準期間の課税売上高が5,000万円を超える

その課税期間は、簡易課税を適用できません。

複数相続人がいる、または遺産が未分割である

まず、自分自身の納税義務と事業承継の関係を確認します。実際に店舗や事業を動かしている相続人一人だけが、当然に制度上の判断主体になるとは限りません。納税義務が確定してから、各相続人がそれぞれ自分自身について簡易課税の適用可否と届出を確認します。

インボイス登録や2割特例・3割特例が関係する

相続固有のルールだけで期限を確定せず、該当する別の特例も確認します。

固定資産等の取得による提出制限が疑われる

届出の前に、現行の国税庁の案内や税務署等へ確認します。


期限・いつまでに

簡易課税制度選択届出書の期限は、少なくとも次の3つの層に分けて確認します。「相続した場合は年末までに出せばよい」という一律の理解はしないでください。

期限区分 内容
一般ルール 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで
相続年の特別な取扱い 一定の条件に該当する場合、相続があった日の属する課税期間中
その他の特例 インボイス登録の経過措置、2割特例・3割特例、災害等による特例など、別の期限があり得る

個人事業者の通常の課税期間は暦年ですが、この記事では「課税期間中」という制度上の条件を中心に確認します。課税期間を短縮している場合など、特殊なケースを一律に排除しないでください。


あなたの場合はこちら

次のいずれかに当てはまる場合は、この記事の範囲を超えるため、別の記事や公式情報で確認します。この記事では、いずれの場合も分岐条件だけを示します。掲載できる関連記事は、公開状況に応じて用意されます。


判断できない場合

自分の状況だけでは判断できない場合は、税務署や税理士等へ、次の内容を整理して伝えてください。

  • 相続があった日
  • 被相続人の事業を引き継いだ日、承継した内容
  • 相続前に自分が事業をしていたか
  • 自分自身の基準期間の課税売上高
  • 自分自身がもともと課税事業者だったか
  • 被相続人が簡易課税制度を適用していたか
  • 自分自身が簡易課税制度選択届出書を提出済みか
  • 自分自身のインボイス登録の状況
  • 適用したい課税期間
  • 固定資産等の大きな取得があったか
  • 複数相続人がいるか、遺産が未分割か

「簡易課税が使えますか」という質問だけでなく、これらの条件を確認材料として伝えると、判断してもらいやすくなります。


相談先

自分の状況で判断できない場合や、実際に届出書を提出する場合は、納税地を所轄する税務署へ確認します。

  • 自分自身の消費税の納税義務や簡易課税の適用可否について、個別の事情を伝えて確認する場合
  • 税理士に依頼している場合は、まず担当の税理士へ確認する

窓口の名称、受付方法、対応可能な時間帯等は変更されることがあるため、この記事では固定的に記載していません。最新の情報は、国税庁の公式情報または所轄の税務署で確認してください。


よくある間違い

  • 被相続人が簡易課税だったので、自分も自動的に簡易課税になると思ってしまう
  • 被相続人の簡易課税制度選択届出書を、そのまま名義変更すればよいと思ってしまう
  • 相続人自身の既存の簡易課税届出まで、相続によって無効になると思ってしまう
  • 相続した年は、誰でも課税期間中に届出を出せば相続年から簡易課税にできると思ってしまう
  • 相続前から事業をしていたかどうかを確認しない
  • 相続前から事業をしていた場合に、被相続人が簡易課税を適用していたか確認しない
  • 自分自身の基準期間の課税売上高1,000万円超という除外条件を見落とす
  • 相続による1,000万円の判定と、簡易課税の5,000万円の判定を同じものだと思ってしまう
  • 5,000万円を超えていても、届出さえ出せば簡易課税を使えると思ってしまう
  • 相続年から使えない場合は、簡易課税自体を永久に選べないと思ってしまう
  • 相続年から使えない場合、必ず翌年から使えると断定してしまう
  • 固定資産等による提出制限を確認しない
  • インボイス等の別の期限ルールを、相続固有のルールと混同してしまう
  • 免税事業者である期間にも、必ず簡易課税で税額計算が必要だと思ってしまう
  • 複数相続人のうち、実際に店を動かしている一人だけが当然に制度判断の対象だと思ってしまう
  • 簡易課税が有利か不利かを、相続したという事実だけで決めてしまう

チェックリスト

相続・納税義務

自分と被相続人の状態

相続年からの適用

簡易課税の基本要件

次の行動


公式リンク

次の公式情報で、制度の詳細と最新の取扱いを確認できます。


注意点

  • 被相続人が簡易課税を使っていたことと、相続人自身が簡易課税を使えるかどうかは、別の問題です。混同しないでください。
  • 相続年から簡易課税を選べるかどうかの判定と、簡易課税の基本要件である5,000万円の判定は、両方を満たす必要があります。片方だけを確認して終えないでください。
  • 固定資産等による提出制限は、この記事だけでは該当するかどうかを判定できません。心当たりがある場合は、公式情報や税務署等で個別に確認してください。
  • インボイス登録や2割特例・3割特例等による別の期限ルールは、相続固有のルールとは別に確認が必要です。一方のルールだけで判断しないでください。
  • 複数相続人がいる場合や遺産が未分割の場合は、まず自分自身の納税義務と事業承継の関係を確認してから、簡易課税の適用可否を判断します。実際に事業を動かしている相続人であるかどうかだけで、制度上の判断主体が決まるわけではありません。
  • 簡易課税と一般課税のどちらが有利かは、この記事では判断しません。個別の税額比較が必要な場合は、税理士等へ相談してください。