事業所得の年末残高を翌年へ繰り越す
概要
個人事業の年末決算整理と帳簿締切を終えると、次に必要になるのが、確定した12月31日時点の残高を翌年1月1日の開始残高へ正しくつなぐ作業です。
年末残高を翌年へ繰り越すとは、前年の帳簿をそのままコピーすることではありません。12月31日時点で残っている資産・負債等は翌年1月1日の開始残高へつなぎますが、売上・仕入・経費等の当年分の損益科目は、新しい年分として改めて集計します。
本記事では、どの残高を翌年へ引き継ぐか、どの科目は前年残高をそのまま持ち越さないか、事業主貸・事業主借を翌期首元入金へどう反映するかを中心に、翌年1月1日の開始残高を確認するところまで案内します。
年末残高がまだ確定していない場合は、先に決算整理と帳簿締切を完了させてください。
このページで分かること
- 翌年へ繰り越す残高と、繰り越さない残高の区別
- 現金・預金、売掛金・買掛金、棚卸資産、固定資産の年末残高を翌年へつなぐ確認方法
- 事業主貸・事業主借を翌期首元入金へ反映する考え方
- 翌年1月1日の開始残高を確認する順序
- 簡易記帳・白色申告での考え方
- 会計ソフトの自動繰越を確認する際のポイント
対象読者
- 個人事業の年末処理を初めて行う人
- 帳簿を締めた後、翌年の帳簿をどう始めるか分からない人
- 会計ソフトの「次年度繰越」「年度更新」等を実行する前後に確認したい人
- 前年末残高と翌年期首残高が合っているか確認したい人
- 売上や経費まで翌年へ持ち越してよいのか迷っている人
- 事業主貸・事業主借・元入金の翌年処理で迷っている人
更新日
更新日:2026年10月4日
最初にやること
最初に、12月31日までの決算整理と帳簿の締切が完了しているかを確認します。
決算整理や帳簿締切が完了していない場合は、先に「事業所得の帳簿を締める」の手順を終えてください。
決算整理と帳簿締切が完了している場合は、確定した12月31日時点の残高一覧を手元に用意します。
年末残高を翌年へ繰り越すとは
年末残高を翌年へ繰り越すとは、前年の帳簿をそのままコピーすることではありません。
12月31日時点で残っている現金、預金、売掛金、買掛金、棚卸資産、固定資産の未償却残高等は、翌年1月1日の開始残高としてつなぎます。
一方、売上や仕入、経費等、当年分の損益を表す科目は、前年の累計額を翌年の開始残高として持ち越しません。新しい年分として、改めて集計します。
このように、資産・負債等の継続残高と、売上・仕入・経費等の損益科目は区別して扱います。
繰り越す前に帳簿を締める
翌年への繰り越しは、決算整理と帳簿の締切を終えた確定残高を起点とします。
決算整理仕訳の詳細、帳簿を締める全体の工程、棚卸や減価償却費の計算方法そのものは、「事業所得の帳簿を締める」で確認してください。
本記事では、確定した年末残高を見ながら、勘定科目ごとに翌年へ持ち越すかどうかを判断し、翌年1月1日の開始残高を確認する部分を中心に説明します。
翌年へ繰り越すもの・繰り越さないもの
年末残高は、科目によって翌年への扱いが異なります。少なくとも次の区分で確認します。
| 区分 | 翌年への扱い | 代表例 |
|---|---|---|
| 資産 | 年末残高を翌年期首へつなぐ | 現金、預金、売掛金、未収入金、棚卸資産、前払費用、固定資産の未償却残高等 |
| 負債 | 年末残高を翌年期首へつなぐ | 買掛金、未払金、未払費用、借入金等 |
| 収益 | 前年残高をそのまま持ち越さない | 売上、雑収入等 |
| 費用 | 前年残高をそのまま持ち越さない | 仕入、租税公課、通信費、消耗品費等 |
| 事業主貸・事業主借 | そのまま翌年へ残さず、翌期首元入金へ反映 | 事業主貸、事業主借 |
| 元入金 | 翌期首に再計算・接続 | 翌期首元入金 |
資産・負債であれば何でも無条件に同じ数字をコピーしてよいわけではありません。決算整理後の正しい年末残高であることが前提です。
売上、仕入、各種経費等は、前年の累計額を翌年の開始残高として持ち越しません。新年分は新たに集計します。
例えば、前年の売上累計が500万円であっても、翌年1月1日の「売上開始残高」を500万円とはしません。新年の売上は改めて集計します。
貸倒引当金その他、年末に戻入・繰入等の固有処理を伴う項目については、本記事だけで機械的な一般則へまとめません。必要な年末処理を終えた後の確定残高を起点とし、個別の処理方法は該当記事や公式資料で確認してください。
現金・預金を繰り越す
- 12月31日の帳簿残高を確認します。
- 実際の現金残高・金融機関残高と照合します。
- 一致を確認したうえで、翌年1月1日の開始残高へつなぎます。
- 前年末と翌年期首に、理由のない差額を作らないようにします。
売掛金・未収入金等を繰り越す
- 得意先等ごとの年末残高を確認します。
- 合計と総勘定元帳等の残高を一致させます。
- 未回収の残高だけを翌年へつなぎます。
- 回収済みの金額を二重に繰り越さないようにします。
例えば、12月31日時点の売掛金残高が30万円で、うちA社20万円、B社10万円が未回収の場合、翌年1月1日には売掛金30万円を開始残高としてつなぎ、A社・B社の補助簿残高も同額で開始します。
買掛金・未払金等を繰り越す
- 仕入先等ごとの残高を確認します。
- 年末に残っている未払い分を翌年へつなぎます。
- 支払済みのものを翌年へ残さないようにします。
棚卸資産を翌年へつなぐ
- 期末棚卸高を翌年の期首棚卸高へつなぎます。
- 棚卸の数量・評価方法そのものについては、別記事で確認してください。
- 期末棚卸高と翌年期首棚卸高が、理由なく異なっていないかを確認します。
例えば、前年12月31日の期末棚卸高が40万円の場合、翌年の期首棚卸高も40万円としてつなぎます。棚卸の数量・評価計算そのものは、別記事で確認してください。
固定資産の未償却残高を翌年へつなぐ
- 資産そのものの取得情報は、固定資産台帳で維持します。
- 年末の未償却残高を翌年の計算へつなぎます。
- 前年の減価償却費累計額を、新年の「当年費用」として持ち越しません。
- 売却・除却済みの資産を、誤って翌年へ残さないようにします。
前払・未収・未払等を翌年へつなぐ
- 決算整理後に残る金額を起点とします。
- 翌年に役務提供・回収・支払等が続く残高を、翌年へつなぎます。
- そもそもの計上要否については、決算整理仕訳に関する記事で確認してください。
事業主貸・事業主借を翌期首元入金へ反映する
翌期首の元入金を確認するときは、次の5つを区別します。
- 期末の元入金
- 期末の事業主貸
- 期末の事業主借
- 青色申告特別控除前の所得金額
- 翌期首の元入金
これらの関係は、次の式で表されます。
翌期首の元入金 = 期末の元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 + 期末の事業主借 - 期末の事業主貸
同時に、次の式でも確認できます。
翌期首の元入金 = 翌年期首の資産総額 - 翌年期首の負債総額
事業主貸・事業主借は、前年残高のまま翌年へ持ち越しません。翌期首元入金へ反映したうえで、翌年は改めて記録します。
期末の元入金と翌期首の元入金は、必ず同額になるとは限りません。事業主貸・事業主借を適当に相殺してゼロにすることや、会計ソフトの表示上の仕訳を税務上唯一の形式として断定することも避けてください。
例えば、期末元入金100万円、青色申告特別控除前所得60万円、期末事業主借20万円、期末事業主貸30万円の場合、
100万円+60万円+20万円-30万円=150万円
を、翌期首元入金として確認します。
この数値例は関係を説明するためのものであり、読者個別の税務判断を代行するものではありません。
元入金の関係は、国税庁「令和7年分 青色申告者のための貸借対照表作成の手引き」でも確認できます。
翌年1月1日の開始残高を確認する
翌年1月1日の開始残高は、次の順序で確認します。
- 前年12月31日の確定残高一覧を用意します。
- 翌年へつなぐ科目を選びます。
- 損益科目が開始残高へ混ざっていないかを確認します。
- 現金・預金を実残高と照合します。
- 売掛金・買掛金等を補助簿と照合します。
- 棚卸資産・固定資産の残高を確認します。
- 前払・未収・未払等の継続残高を確認します。
- 事業主貸・事業主借を翌期首元入金へ反映します。
- 翌年期首の資産・負債・元入金の整合を確認します。
- 会計ソフト利用時は、自動繰越結果を確認します。
簡易記帳・白色申告の場合
複式簿記の決算振替や元入金仕訳を、簡易記帳・白色申告へ機械的に要求するものではありません。
簡易記帳・白色申告でも、少なくとも次を正しく引き継げることを中心に確認します。
- 現金残高
- 売掛金・買掛金等の年末残高
- 棚卸高
- 固定資産の未償却残高
- 翌年の帳簿へ必要な開始情報
白色申告であっても、年末残高の確認自体が不要になるわけではありません。
会計ソフトを使っている場合
会計ソフトでは、年度更新や次年度繰越によって、開始残高が自動で作成される場合があります。
本記事では、特定の会計ソフトの操作方法は説明しません。
会計ソフトを利用している場合は、少なくとも次を確認します。
- 対象年度が正しいか
- 決算整理仕訳を反映した後に繰り越しているか
- 前年末残高と翌年期首残高がつながっているか
- 損益科目が前年累計のまま開始残高へ混ざっていないか
- 事業主貸・事業主借が翌期首元入金へ適切に反映されているか
- 固定資産・棚卸資産・売掛金・買掛金等が正しく引き継がれているか
- 繰越後に前年を修正した場合、翌年側への再反映方法を確認したか
会計ソフトが自動処理したことを理由に、確認を省略しないようにします。「再繰越」「年度更新取消」等の具体的な操作方法は、利用しているソフトの公式サポートで確認してください。
繰り越した後に前年を修正した場合
年末残高を翌年へ繰り越した後に、前年の決算整理や残高を修正すると、翌年期首残高との不一致が生じる可能性があります。
この場合は、次の順序で確認します。
- 前年側の正しい残高を確定します。
- 翌年期首残高への影響を確認します。
- 会計ソフト利用時は、公式の再繰越・修正方法を確認します。
- 差額合わせだけの仕訳で済ませないようにします。
具体的なソフト操作や過年度申告の修正方法は、本記事の範囲外です。利用しているソフトの公式サポートや、該当する記事・公式情報で確認してください。
よくある間違い
- 前年の売上累計を翌年へ開始残高として持ち越す
- 前年の経費累計を翌年へ持ち越す
- 事業主貸・事業主借を前年残高のまま翌年へ残す
- 期末元入金と翌期首元入金を同額だと思い込む
- 売掛金・買掛金の合計だけ合わせ、得意先・仕入先別残高が合っていない
- 現金・預金を帳簿だけで繰り越し、実残高を確認しない
- 棚卸資産の期末と翌年期首がつながっていない
- 売却・除却済み固定資産を翌年へ残す
- 決算整理前の残高を繰り越す
- 会計ソフトが自動処理したため確認不要だと思う
- 前年修正後、翌年の開始残高を直さない
- 「残高の繰越」と「純損失の繰越控除」を混同する
「残高の翌期繰越」と「純損失の税務上の繰越控除」は別の話です。本記事で扱うのは前者であり、純損失の繰越控除については、該当する記事や公式情報で確認してください。
判断が難しい場合
記事の内容だけで判断できない場合は、国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」や「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」などの公式情報のほか、税務署や税理士等の専門家へ確認してください。
確認の際は、少なくとも次を整理して伝えると、スムーズに相談できます。
- 記帳方式(複式簿記か、簡易記帳・白色申告か)
- 年末残高が問題となっている勘定科目
- 12月31日の帳簿残高
- 翌年1月1日に設定した開始残高
- 決算整理が済んでいるか
- 会計ソフトを利用しているか
- 前年を繰越後に修正したか
- どの金額が一致しないか
チェックリスト
まとめ
年末残高を翌年へ繰り越すとは、前年の帳簿をそのままコピーすることではなく、確定した12月31日時点の資産・負債等を、翌年1月1日の開始残高へ正しくつなぐ作業です。
売上・仕入・経費等の損益科目は前年の累計額を持ち越さず、新しい年分として改めて集計します。事業主貸・事業主借は、翌期首元入金へ反映したうえで、翌年は改めて記録します。
前年末残高と翌年期首残高に不一致がある場合は、差額合わせで済ませず、原因を確認してください。