事業所得の現金・預金残高を確認する

概要

個人で事業を行っていると、現金出納帳や会計ソフトに記帳している現金・預金の残高が、実際に手元にある現金や銀行口座の残高と合っているかどうかが気になる場面があります。日々の記帳を続けていても、入力漏れや金額の誤りなどによって、帳簿の数字と実際の数字がずれることがあります。

この記事は、事業用の現金出納帳や預金出納帳を最初から作る方法を説明するものではありません。すでに取引を記帳している方が、帳簿上の残高と実際の残高を照合し、差額があった場合にどこから確認すればよいかを整理するための記事です。

対象とするのは、事業用として帳簿に記録している現金・預金です。私用の財布や口座は、事業用の帳簿として管理していない限り、比較の対象にしません。

この記事を読むことで、現金・預金の帳簿残高と実際残高の照合方法、差額があるときの確認順序、現金と預金の間の資金移動や家計との出入りの扱い、年末の残高確認、そして原因が分からない場合の相談先までを確認できます。

このページで分かること

  • 現金残高の確認方法
  • 預金残高の確認方法
  • 差額があるときの原因確認の順序
  • 現金と預金の間で資金を移したときの扱い
  • 事業と家計の間で資金の出入りがあったときの扱い
  • 年末に確認すること
  • 原因が分からない場合の確認先

対象読者

この記事は、主に次のような方を対象としています。

  • 個人事業の帳簿を付けている人
  • 現金出納帳の残高が正しいか確認したい人
  • 会計ソフトの現金残高と手元の現金が合わない人
  • 普通預金などの帳簿残高と銀行残高が合わない人
  • 年末や決算前に現金・預金残高を確認したい人
  • 事業用と私用の資金が混ざりやすい人
  • 残高の差額が出たとき、どの勘定科目で直せばよいか分からない人

更新日

更新日:2026年10月4日

現金・預金残高を確認する前にそろえるもの

残高の確認を始める前に、次のものを手元にそろえます。

確認の全体像

現金・預金の残高確認は、大きく分けると次の五つの場面で行います。あらかじめ全体像を把握しておくと、どこを確認しているのか迷いにくくなります。

確認対象 帳簿側で確認するもの 実際側で確認するもの 主な差額原因 まず行うこと
事業用現金 現金勘定・現金出納帳の残高 実際に数えた事業用現金 現金取引の記帳漏れ・二重記帳・私用出金・振替漏れ 証憑と入出金を時系列で点検する
事業用預金 口座別の普通預金等の帳簿残高 銀行残高・取引明細 引落し・手数料・入金・振替漏れ・重複記帳 銀行明細と帳簿を口座別に照合する
現金↔預金 現金と預金の両方の勘定 実際の資金移動の内容 振替の片側だけの記帳 振替取引として両側を確認する
事業↔家計 事業主貸・事業主借等の記帳内容 実際の資金の向き 私用取引の混入・家計からの資金投入の記帳漏れ 事業主貸・事業主借の要否を確認する
年末残高 決算日時点の帳簿残高 実査・銀行側の残高 年末取引の記帳漏れ・開始残高の誤り・訂正漏れ 決算前に再度照合する

現金について

  • 現金出納帳、または会計ソフトの「現金」勘定の残高
  • 実際に手元にある事業用現金
  • 直近の領収書・レシート・入出金メモなど
  • 未入力の現金取引がないか確認できる資料

預金について

  • 会計ソフト、総勘定元帳、預金出納帳などの口座別残高
  • 銀行の通帳、取引明細、インターネットバンキングなどで確認できる残高
  • 直近の振込、振替、引落し、手数料、利息などの取引明細

事業用・私用の区分

比較の対象は、「事業用として帳簿に載せている現金・預金」にそろえます。

私用の財布や私用口座を帳簿上の事業用資産として管理していない場合は、その口座全体の残高を事業帳簿の預金残高と一致させようとする必要はありません。

現金残高を確認する

現金は、帳簿残高だけでなく、実際に手元にある事業用現金と突き合わせて確認します。

基本手順

  1. 帳簿や会計ソフトで現金残高を確認する
  2. 事業用として保管している現金を実際に数える
  3. 帳簿残高と実際残高を比較する
  4. 一致すれば、その時点の確認は完了する
  5. 一致しない場合は、次の章の順で原因を確認する

日常の確認

現金出納帳は毎日記載し、その日のうちに現金残高を実際の現金と突き合わせることが、日々の記帳では大切とされています。

ただし、ある日たまたまその日のうちに確認できなかったことだけをもって、直ちに記帳全体が問題になるといった独自の判断はしていません。確認の頻度に不安がある場合は、会計ソフトの公式サポートや税務署・税理士等に確認してください。

現金を数える対象

  • 事業用として保管している紙幣・硬貨
  • 小口現金として別に管理している場合は、その管理単位の現金

私用の財布に入っている現金は、事業用現金へ混ぜて数えません。

現金残高が合わないときに確認すること

現金の帳簿残高と実際残高が一致しない場合は、次を上から順に確認します。差額があるからといって、原因を確認せずに売上や経費などを追加して数字だけを合わせることは避けます。

  1. 入金した現金売上・売掛金回収などの記帳漏れ
  2. 現金で支払った仕入・経費などの記帳漏れ
  3. 同じ取引の二重記帳
  4. 金額の入力誤り
  5. 入金・出金の向きの入力誤り
  6. 事業用現金から生活費などを取り出したのに事業主貸が未記帳
  7. 家計から事業用現金を入れたのに事業主借などが未記帳
  8. 預金から現金を引き出した、または現金を預金へ入れた振替の片側が未記帳
  9. 日付違いにより確認対象期間がずれていないか
  10. 証憑・メモと帳簿の不一致

原因が見つかった場合は、差額そのものを処理するのではなく、原因となった取引を記帳・訂正してから再度照合します。

預金残高を確認する

預金は、口座ごとに帳簿残高と銀行の残高・取引明細を照合します。

基本手順

  1. 口座別に帳簿や会計ソフトの預金残高を確認する
  2. 同じ口座の銀行残高・取引明細を確認する
  3. 基準日をそろえて比較する
  4. 一致すれば、その口座の確認は完了する
  5. 一致しない場合は、次の章の順で原因を確認する

口座別に確認する

複数の事業用口座がある場合は、預金合計だけでなく、原則として口座ごとに照合します。

預貯金については、口座別に預金出納帳を作成し、入出金を取引順に記載する方法が示されています。

基準日を合わせる

帳簿側と銀行側で、同じ時点・同じ日までの取引を比較します。

年末の確認では、年末時点の帳簿残高と、その時点の銀行残高・取引明細を照合します。

預金残高が合わないときに確認すること

預金の帳簿残高と銀行残高・取引明細が一致しない場合は、次を上から順に確認します。

  1. 振込入金の記帳漏れ
  2. 口座引落しの記帳漏れ
  3. 振込手数料・ATM手数料などの記帳漏れ
  4. 預金利息などの入金の記帳漏れ
  5. 同じ銀行取引の二重記帳
  6. 金額の入力誤り
  7. 別口座へ誤って記帳していないか
  8. 現金・別の事業用口座との振替で片側が未記帳になっていないか
  9. 私用の入出金があるのに事業主貸・事業主借などの処理が漏れていないか
  10. 会計ソフトの自動連携取引と手入力取引が重複していないか
  11. 帳簿と銀行側で比較している日付・時点が同じか

原因が特定できたら、その取引を正しく記帳・訂正した後、再度残高を照合します。

現金と預金の間で資金を移したとき

事業用の普通預金から事業用の現金へ資金を移す、あるいはその逆を行うことは、事業内の資金移動です。売上でも必要経費でもなく、事業主貸・事業主借を使う取引でもありません。

例:事業用普通預金から事業用現金へ30,000円を引き出した場合

借方:現金   30,000
貸方:普通預金 30,000

現金は30,000円増え、普通預金は30,000円減ります。

このような振替では、現金側と預金側の両方が正しく動いているかを確認します。振替の片側だけが記帳され、もう片側が未記帳になっていると、現金・預金それぞれの残高確認で差額の原因になります。

私用資金との出入りがあるとき

事業用の現金・預金と、家計の資金との間で出入りがある場合は、事業主貸・事業主借が関係することがあります。

家計から事業へ現金を入れた場合

例:家計の現金20,000円を事業用現金へ追加した場合

借方:現金   20,000
貸方:事業主借 20,000

この取引を売上や雑収入として扱うことはしません。

事業用現金を生活費へ回した場合

例:事業用現金10,000円を生活費として取り出した場合

借方:事業主貸 10,000
貸方:現金   10,000

生活費として取り出した金額を必要経費とすることはしません。

この記事で扱う範囲

事業主貸・事業主借の詳しい判断については、別記事「事業所得の事業主貸・事業主借を記帳する」で扱います。この記事では、私用資金との出入りが残高差額の原因になっていないかを確認するところまでを扱います。

年末に現金・預金残高を確認する

年末には、少なくとも次を確認します。年末の確認だけで日常の現金照合の代わりにするものではありません。

  • 現金の帳簿残高と実際の事業用現金が一致している
  • 各預金口座の帳簿残高と銀行側の残高・取引明細が一致している
  • 年末までの売上・経費などの未記帳取引が残っていない
  • 現金と預金、預金口座同士の振替が片側だけになっていない
  • 私用資金との出入りについて事業主貸・事業主借などの漏れがない
  • 現金・預金残高がマイナスなど不自然な状態になっていない
  • 貸借対照表へつなぐ残高が、確認済みの帳簿残高になっている
  • 貸借対照表と損益計算書の金額が一致しない場合、計算誤りや事業主貸・事業主借などの計上漏れを点検した

差額の原因が分かったときの直し方

差額の原因が分かった場合は、差額そのものを処理するのではなく、原因となった元の取引を正しく記帳・訂正します。

例えば、次のように対応します。

  • 現金で支払った消耗品費2,000円の記帳漏れ → その消耗品購入を記帳する
  • 事業用口座の振込手数料220円の記帳漏れ → その手数料取引を記帳する
  • 生活費10,000円の引き出し漏れ → 事業主貸などの適切な取引として記帳する
  • 預金から現金への振替が預金側だけだった → 現金側を含めて正しい振替に直す

差額の原因が分からないとき

原因が分からない差額を、雑損失・雑収入・事業主貸・事業主借などへ機械的に振り替えることはしません。

原因が分からない場合は、次の順で確認します。

  1. 証憑・銀行明細・現金出納帳・総勘定元帳などを再確認する
  2. 会計ソフトの重複記帳、自動連携、開始残高の設定などを確認する
  3. それでも原因が分からない場合は、差額が発生した日・金額・確認済みの事項を整理して、会計ソフトの公式サポートや税務署・税理士等に確認する

具体例

例A 帳簿の現金50,000円、実際の現金48,000円

差額は2,000円の不足です。

この場合、すぐに2,000円を何らかの費用として入力するのではなく、まず次を確認します。

  • 2,000円前後の現金支出のレシート・領収書
  • 生活費などとして現金を取り出していないか
  • 預金への入金・預金からの引き出しの片側漏れ
  • 入力金額の誤り
  • 同じ取引の二重入力

消耗品2,000円の記帳漏れが判明した場合は、その消耗品取引を記帳して残高を再確認します。

例B 帳簿の普通預金200,000円、銀行残高199,780円

差額は220円です。

銀行明細に振込手数料220円があり、帳簿へ未入力だった場合は、その手数料取引を正しく記帳します。

差額220円という数字だけから勘定科目を決めることはしません。

例C 普通預金から現金30,000円を引き出した

借方:現金   30,000
貸方:普通預金 30,000

現金は30,000円増え、普通預金は30,000円減ります。売上、必要経費、事業主貸・事業主借のいずれでもありません。

例D 家計の現金20,000円を事業用現金へ入れた

借方:現金   20,000
貸方:事業主借 20,000

この取引を売上・雑収入として扱うことはしません。

例E 事業用現金から生活費10,000円を取り出した

借方:事業主貸 10,000
貸方:現金   10,000

生活費として取り出した金額を必要経費とすることはしません。

よくある間違い

  • 帳簿の現金残高だけを見て、実際の現金を数えない
  • 預金の合計額だけを見て、口座別に照合しない
  • 銀行手数料・引落し・入金の記帳漏れを見落とす
  • 会計ソフトの自動連携と手入力が重複している
  • 現金と預金の間の振替の片側だけを記帳する
  • 口座間の振替を売上・必要経費として記帳する
  • 家計からの資金投入を売上・雑収入として記帳する
  • 生活費などの取り出しを必要経費として記帳する
  • 私用口座全体を事業帳簿の残高へ合わせようとする
  • 差額の原因を確認せず、適当な勘定科目で帳尻を合わせる
  • 年末残高がマイナスなど不自然な状態のまま決算へ進む

判断が難しい場合

会計ソフトの勘定科目へ入力しただけで、税務上の結論が決まるわけではありません。判断が難しい場合は、資料を整理したうえで確認先へ相談します。

確認先へ伝える情報として、次を整理しておくと相談がスムーズになります。

  • 差額がある現金・口座
  • 帳簿残高
  • 実際残高・銀行残高
  • 差額の金額
  • いつから合わなくなっているか
  • 最近の取引内容
  • 事業主貸・事業主借の有無
  • 口座間振替の有無
  • 自動連携の有無
  • 確認済みの証憑・明細

チェックリスト

相談先

会計ソフトの公式サポート

次のような操作面の確認は、利用している会計ソフトの公式サポートへ相談します。

  • 現金・普通預金などの残高確認画面
  • 口座別補助科目の確認方法
  • 自動連携と手入力の重複確認方法
  • 開始残高・前年繰越の設定確認方法
  • 口座間振替の標準入力方法
  • 私用口座を帳簿管理しない場合の入力方法
  • 誤入力の訂正方法

税務署・税理士等

次のような判断が難しい事項は、税務署や税理士等へ相談します。

  • 原因不明の現金差額の税務・記帳上の最終処理
  • 過年度から続いている現金・預金残高の不一致
  • 私用口座・事業用口座が長期間混在している場合の整理
  • 事業主貸・事業主借の判断が難しい資金移動
  • 過去の売上・必要経費などの記帳漏れが見つかった場合の訂正
  • 特殊な預金・外貨・電子マネーなどの扱い

公式情報

より詳しい内容や最新の情報は、次の公式資料で確認できます。