事業所得の必要経費を記帳する
概要
事業所得のある方には、収入や必要経費に関する記帳と帳簿書類の保存が義務付けられています。しかし、経費帳や仕訳に入力しただけで、その支出が税務上の必要経費になるわけではありません。この記事では、すでに必要経費として記録すべき取引であることを確認した支出について、いつ・どの科目で・どの相手勘定を使って記録するかを整理します。
現金払い、事業用預金からの支払い、後払い、クレジットカード払い、私用資金での立替、家事分が混ざる費用など、支払方法や状況ごとに記帳の考え方は異なります。この記事では、それぞれの状況での記帳の基本パターンと、年末に確認すべき事項を順に確認します。
何が必要経費に当たるかという判断そのものは、この記事の範囲ではありません。経費該当性の確認は「事業所得の必要経費について知る」で扱う内容であり、この記事では記帳に必要な最小限の確認だけを行います。
読み終えると、自分の経費取引について何を・いつ・どの方法で記録するか、支払方法に応じてどう分けるか、年末に何を確認すべきかを判断できる状態になります。
このページで分かること
- 経費を記帳する前に確認しておくこと
- 経費を記帳するときに残しておく情報
- 現金・事業用口座・後払い・クレジットカードなど、支払方法ごとの記帳の考え方
- 私用資金で経費を払った場合と、事業用資金で私生活費を払った場合の違い
- 家事分が混ざる費用の記帳の考え方
- 前払い・返金・取消・値引きがあった場合の考え方
- 年末に確認すること
- 帳簿と領収書・請求書などを照合する方法
- 判断が難しい場合の確認先
対象読者
この記事は、主に次のような方を対象としています。
- 個人事業の帳簿をこれから、または最近付け始めた方
- 何を経費にするかは大まかに判断できるが、帳簿への入れ方に迷っている方
- 現金払い以外の支払い(預金・カード・私用資金など)の記帳方法が分からない方
- 私用のカードや口座で事業の経費を立て替えることがある方
- 年末に未払費用や家事分の整理が必要な方
- 青色申告・白色申告の違いを意識しながら記帳したい方
何が必要経費に当たるかをまだ確認できていない方は、先に「事業所得の必要経費について知る」で確認することをおすすめします。
更新日
更新日:2026年10月4日
必要経費を記帳する前に確認すること
経費帳や仕訳に入力しただけで、その支出が税務上の必要経費になるわけではありません。記帳を始める前に、次の点を確認します。
まず、その支出が必要経費として記録する取引かどうかを確認します。必要経費に該当するかどうかの詳しい判断は、「事業所得の必要経費について知る」で扱う内容です。この記事では、記帳の前提として必要経費であることが確認できた取引を対象とします。
次に、その支出が仕入・固定資産・給与等の別処理に当たらないかを確認します。
- 販売用の商品や原材料の仕入れは、「事業所得の仕入れを記帳する」の範囲です。
- 減価償却の対象となる固定資産の取得は、「事業所得の減価償却について知る」の範囲です。
- 修理・改良にかかる支出のうち、修繕費か資本的支出かの判定は、「事業所得の修繕費と資本的支出の違いについて知る」の範囲です。
- 給与・専従者給与・源泉徴収に関する詳細は、この記事の範囲外です。
これらに当たる場合は、それぞれの記事や公式情報を確認してください。この記事では、仕入以外の必要経費を中心に扱います。
経費を記帳するときに残す情報
必要経費の記帳では、取引内容、年月日、相手方、金額等を後から確認できる状態にします。少なくとも次の情報を記録します。
- 取引年月日
- 取引内容・支出の事由
- 支払先・取引の相手方
- 金額
- 費用科目
- 支払方法(現金・預金・カード・私用資金など)
- 未払・後払・前払等の状態
- 家事分が混ざっているかどうか
- 対応する領収書・請求書等の証憑
この情報が記録されていれば、後から取引の内容を確認したり、証憑と照合したりすることができます。
経費科目を決める
必要経費は、記帳の際に費用科目へ分類します。代表的な科目には、次のようなものがあります。
給料賃金、外注工賃、減価償却費、貸倒金、地代家賃、利子割引料、租税公課、荷造運賃、水道光熱費、旅費交通費、通信費、広告宣伝費、接待交際費、損害保険料、修繕費、消耗品費、福利厚生費、雑費など。
ただし、経費科目の名前だけで必要経費かどうかを判断することはできません。「消耗品費」や「修繕費」という科目を付けたからといって、その支出が自動的に必要経費になるわけではありません。科目は取引内容を分類するためのものであり、税務上の経費可否や、資産・棚卸・家事費等との区分は別途確認が必要です。
どの科目に分類するか迷う場合は、支出の内容や目的に応じて判断し、判断が難しい場合は税務署や税理士等の専門家に確認してください。
現金で支払った経費を記帳する
事業用の消耗品などを現金で購入した場合の代表的な記帳例です。
例:事業用の消耗品3,000円を現金で購入した場合
消耗品費 3,000 / 現金 3,000
この例では、経費の発生と支払いが同時に行われています。現金出納帳を使う場合は現金の減少もあわせて記録し、経費帳を使う場合は消耗品費の口座へ記録します。経費帳と現金出納帳の両方に記録が必要になる場合がありますが、二つの帳簿に記録することと、経費を二回計上することは異なります。同じ取引について、経費帳に記載したことを理由にもう一度経費として計上することはありません。
事業用口座から支払った経費を記帳する
事業専用の口座から経費を支払った場合の代表的な記帳例です。
例:事務所家賃50,000円を事業用の普通預金口座から支払った場合
地代家賃 50,000 / 普通預金 50,000
事業用口座からの支払いは、預金出納帳等の記録と対応させます。摘要欄に支払先や対象月などを記載しておくと、後から取引を追いやすくなります。銀行明細と帳簿を照合できる状態にしておきます。
後払い・未払の経費を記帳する
通常の所得計算では、支払日だけで、その年の必要経費になるかが決まるわけではありません。経費が発生した日と実際に支払う日が異なる場合は、発生時と支払時を分けて記録する場合があります。
例:12月に外部サービスの利用が確定し、利用料20,000円を翌年1月に支払う場合
発生時:
外注工賃等 20,000 / 未払金 20,000
翌月の支払時:
未払金 20,000 / 普通預金 20,000
すでに経費を計上している未払金等を支払ったときに、支払時にもう一度同じ経費を計上することはありません。科目は取引内容に応じて選びます。実際にその支出がどの年の必要経費となるかは、債務が確定した時期等の確認が必要です。
なお、白色申告の簡易な記帳方法では、出金した時点で記載し、年末に未払額を記載する方法が認められる場合があります。この方法については、「青色申告と白色申告で記帳はどう違うか」であわせて確認します。
クレジットカードで支払った経費を記帳する
事業用のクレジットカードで経費を支払った場合の代表的な記帳例です。
例:通信関連費8,000円を事業用カードで決済し、翌月事業用口座から引き落とされる場合
カード利用時:
通信費 8,000 / 未払金 8,000
口座からの引落時:
未払金 8,000 / 普通預金 8,000
クレジットカードの利用時と口座引落時を二重に経費計上することはありません。相手勘定は取引実態や記帳方式に応じて整理します。「カードで支払った場合は必ず未払金を使う」と一律に決まっているわけではなく、カード明細だけでなく、取引内容を確認できる請求書・領収書等とあわせて確認します。
私用資金・私用カードで支払った経費を記帳する
事業主個人の資金や私用のカードで事業の経費を立て替えた場合の代表的な記帳例です。
例:事業用の消耗品4,000円を事業主個人の資金で支払った場合
消耗品費 4,000 / 事業主借 4,000
私用資金で支払ったことだけを理由に、事業上の必要経費から外れるわけではありません。必要経費に当たるかどうかは支出の内容で判断します。「事業主借」は、家計用の資金を事業用に充てた場合に使う勘定科目であり、事業と家計の資金負担を区別するために使います。
私用カードの引落しを事業用口座で処理していない場合は、カードの引落時に事業の帳簿で経費を再度計上することはありません。
事業用資金から私生活費を支払った場合
事業用の資金から生活費など私用の支出を行った場合の代表的な記帳例です。
例:事業用現金から生活費30,000円を支出した場合
事業主貸 30,000 / 現金 30,000
事業用の口座や現金から支払ったことだけを理由に、私生活費が必要経費になるわけではありません。「どの資金から支払ったか」と「必要経費に当たるか」は別の問題です。「事業主貸」は、事業用の資金を生活費など家計用に充てた場合に使う勘定科目です。
家事分が混ざる経費を記帳する
電気料金など、事業と家事の両方に使う費用については、事業として使用した部分だけを必要経費とします。家事関連費は、事業に必要な部分だけを必要経費として残します。
記帳の方法には、大きく分けて次の考え方があります。
- 支払った時点から、あらかじめ事業分だけを経費として記録する方法
- いったん支払額の全体を記録し、年末に家事分をまとめて減算する方法
どちらの方法を使う場合でも、家事分をそのまま経費として残しておくことはありません。事業として使用した割合をどのように決めるかという按分率の考え方は、「事業所得の家事按分について知る」で確認します。この記事では、按分率そのものを一律の基準で決めることはしません。
前払いした経費を確認する
翌年分を含む期間のサービス料などを、年内にまとめて支払う場合があります。この場合、支払った金額のすべてが、その年の必要経費になるとは限りません。
翌年分に対応する金額については、前払費用等として区分することがあります。一定の要件を満たす短期の前払費用等について特別な扱いが認められる場合がありますが、その個別の要件については、この記事では取り上げません。年末には、前払額が含まれていないかを確認します。
具体的な仕訳の形は、制度上の個別要件に左右されない範囲の単純な例にとどめます。判断が難しい場合は、税務署や税理士等に確認してください。
返金・取消・値引きがあった場合
すでに記録した経費について、後日返金・取消・値引きがあった場合の考え方です。
当初の経費の記録と対応する形で、調整の記録を残します。返金された金額を、新たな売上として機械的に処理することはありません。どの取引に対する調整かを、摘要等で後から追えるようにしておきます。返金や値引きに消費税等が絡む場合の詳細な取扱いは、この記事の範囲外であり、公式情報で確認してください。
経費帳・現金出納帳・預金出納帳の関係
経費帳
経費帳は、仕入以外の費用を科目別に整理する補助簿の代表的な例です。年月日、摘要、金額、現金、その他、累計といった列で記録する例が示されています。ただし、この様式が全国一律の決まった形式というわけではなく、取引の実態に応じて作成する帳簿の構成は異なります。
現金出納帳
現金で経費を支払った場合は、現金の減少を現金出納帳に記録します。国税庁の資料では、費用を現金で支払った場合に経費帳への記載もあわせて行うよう案内されています。経費帳と現金出納帳の両方へ記録することは、経費を二回計上することを意味するわけではありません。
預金出納帳
事業用口座で支払う取引は、口座ごとに入出金を追える状態にしておきます。銀行明細と帳簿を照合できるようにしておきます。
会計ソフトを使う場合
会計ソフトでは、一つの仕訳を入力すると、複数の帳簿・元帳へ自動的に反映される場合があります。手書きの帳簿で「複数の帳簿へそれぞれ記載する」ことと、会計ソフト上で「一つの仕訳から自動的に転記される」ことは、仕組みが異なります。会計ソフトを使えば税務上の判断まで自動的に正しくなるわけではなく、経費に該当するかどうかや科目の選び方は、引き続き自分で確認する必要があります。
青色申告と白色申告で記帳はどう違うか
青色申告・白色申告のいずれの場合も、事業所得等がある方には記帳と帳簿等の保存が必要です。請求書や領収書を保管しているだけでは、記帳の代わりにはなりません。
青色申告の場合
青色申告では、正規の簿記の原則による記帳が関係します。簡易帳簿の標準的な例として、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳等が示されています。ただし、すべての事業者が同じ補助簿一式を必ず作成しなければならないわけではなく、取引の実態に応じて必要な帳簿の構成は異なります。青色申告特別控除の金額や適用要件の詳細は、この記事の範囲外です。
白色申告の場合
白色申告でも、取引年月日、相手方、金額等の記録が必要です。ただし、一定の取引については、日々の合計額等による簡易な記載方法が認められています。少額な費用は、費用項目ごとに日々の合計額を記載できる場合があります。
また、経費について現実に出金した時点で記載し、年末に未払額・前払額を記載する簡易な方法が示されています。この簡易な記帳方法は、あくまで記載の仕方に関する簡便化であり、所得計算そのものが現金主義になるという意味ではありません。
現金主義の特例との違い
青色申告には、一定の要件のもとで現金主義による所得計算ができる特例があります。この記事で説明した「白色申告の簡易な記載方法」「通常の発生ベースの所得計算」「青色申告の現金主義の特例」は、それぞれ別のものです。青色申告の現金主義の特例の適用要件の詳細は、この記事の範囲外であり、公式情報で確認してください。
年末に確認すること
年末には、次の点を確認します。
- 未払の経費が残っていないか
- 翌年分の前払が含まれていないか
- 家事分を除外したか
- 経費に含めた固定資産がないか
- 仕入として扱うべき取引が混ざっていないか
- 返金・取消・値引きの調整漏れがないか
- 現金・預金の残高と帳簿が合っているか
- カードの未払等が重複して計上されていないか
- 領収書・請求書・カード明細・銀行明細等と帳簿を照合したか
- 月別・年計の集計漏れがないか
- 青色申告決算書や収支内訳書へ転記する科目が整理できているか
年末には未払額・前払額・家事分等の確認が必要になることがあります。これらの確認をまとめて行うことで、申告に必要な集計へつなげることができます。
帳簿と領収書・請求書などを照合する
領収書があることだけで、その支出が必要経費になるわけではありません。反対に、領収書があるからといって、帳簿への記帳が不要になるわけでもありません。帳簿と証憑は、それぞれ役割が異なります。
代表的な証憑には、次のようなものがあります。
- 領収書
- 請求書
- 納品書
- 契約書
- 銀行明細
- クレジットカード利用明細
- 電子取引データ
- その他取引内容を確認できる記録
支出内容、相手方、日付、金額、事業との関係を、後から確認できる状態にしておきます。書類の保存期間は、青色申告か白色申告か、また書類の種類によって異なります。すべての帳簿・書類を一律に7年間保存すればよいというものではありません。具体的な保存期間は、公式情報で確認してください。電子データとしての保存に関する詳しい取扱いは、この記事の範囲外です。
よくある誤解
- 領収書があれば経費帳に書かなくてよい、というものではありません。
- 支払った日にだけ経費を記帳すればよい、というものではありません。
- クレジットカードの引落日にもう一度経費を計上する必要はありません。
- 私用カードで支払ったものは経費にできない、というものではありません。
- 事業用口座から支払えば何でも経費になる、というものではありません。
- 経費帳に書けば必要経費として認められる、というものではありません。
- 「消耗品費」などの科目名を付ければ経費になる、というものではありません。
- 白色申告なら帳簿は不要、というものではありません。
- 白色申告の簡易な記帳方法は、所得計算上の現金主義と同じではありません。
- 青色申告者が全員、同じ補助簿を一式そろえて作らなければならないわけではありません。
- 現金出納帳と経費帳の両方に記録することは、二重計上を意味するわけではありません。
- 年末の未払・前払・家事分の確認は、省略できるものではありません。
チェックリスト
判断が難しい場合
この記事では、個別の税務判断を代行することはできません。判断が難しい場合は、次の内容を整理したうえで確認してください。
- 支出の具体的な内容
- 何のために支払ったか
- 取引が発生した日
- 支払日
- 支払方法
- 相手方
- 契約・請求内容
- 私生活部分が含まれているか
- 仕入・固定資産等の別処理に当たる可能性があるか
- 未払・前払があるか
- 使用している記帳方式
- 青色申告か白色申告か
- 現金主義の特例を適用しているか
- 消費税上の区分経理が必要か
相談先
- 所轄の税務署
- 税理士等の税務専門家