事業所得の借入金・借入金利息を記帳する
概要
個人事業者が事業のためにお金を借りると、帳簿には「借りたときの入金」「返したときの出金」「利息を払ったときの出金」という三つの異なる取引が発生します。この三つを混同すると、借入金の入金を売上として記帳してしまったり、毎月の返済額を全額必要経費にしてしまったりする誤りが起こります。
借入金は、借りたときに売上になるものではなく、返したときに元本全部が必要経費になるものでもありません。借入時は「借入金」という負債が増え、返済時は元本部分でその負債を減らします。事業のための借入金にかかる利息は、必要経費として「利子割引料」等で記録するのが基本です。
このページでは、借入時・元本返済時・利息支払時・元本と利息を同時に返済したときの基本的な記帳方法と、事業用と私用が混在する借入金の利息を扱う際の考え方を説明します。特殊な金融商品や借換え、外貨建て借入、親族間の貸し借りなど、個別性が高い取引については扱いません。該当する場合は、記事内で示す確認先へご確認ください。
このページで分かること
- 借入金の入金がなぜ売上にならないか
- 借入金の元本を返済してもなぜ必要経費にならないか
- 事業のための借入金の利息がなぜ必要経費になり得るか
- 借入時・元本返済時・利息支払時の代表的な記帳方法
- 毎月の返済額に元本と利息が含まれる場合の分け方
- 事業用と私用が混在する借入金の利息をどう扱うか
- 年末に借入金残高を確認する際に見るべき点
- 判断に迷う場合の確認先
対象読者
- 個人事業の帳簿を付けている人
- 開業資金や運転資金、設備資金などを金融機関等から借りた人
- 毎月のローン返済を帳簿へどう入れればよいか迷っている人
- 返済額の全部を必要経費にしてよいか分からない人
- 元本と利息をどの勘定科目に分ければよいか分からない人
- 事業用と私用が混ざる借入の利息処理に迷っている人
- 年末に借入金残高を確認したい人
更新日
更新日:2026年10月4日
借入金を記帳する前に確認すること
記帳を始める前に、次を手元で確認してください。
- 借入先
- 借入日
- 借入額
- 資金の使いみち(事業専用か、私用と混在しているか)
- 返済予定表・返済明細の有無
- 毎回の返済額に含まれる元本と利息の内訳
- 返済を行う口座(事業用口座か私用口座か)
これらが分からないままでは、元本と利息を正しく分けて記帳できません。借入契約書や返済予定表、金融機関から届く返済明細等を先に確認してください。
借入金と借入金利息の違い
借入金(元本)と借入金利息は、帳簿上まったく別の性質を持つ取引です。次の表で全体像を確認してください。
| 比較軸 | 借入時 | 元本返済 | 利息支払 |
|---|---|---|---|
| お金の動き | 入金 | 出金 | 出金 |
| 損益への影響 | 原則なし | 原則なし | 事業分は必要経費になり得る |
| 主な勘定科目 | 借入金 | 借入金 | 利子割引料等 |
| 負債残高 | 増える | 減る | 原則として元本残高は減らない |
| 売上か | いいえ | ― | ― |
| 必要経費か | いいえ | いいえ | 事業分はなり得る |
| 確認する資料 | 借入契約・入金記録 | 返済明細・返済予定表 | 返済明細・返済予定表 |
毎月の返済額に元本と利息が同時に含まれている場合は、この表のとおり、一つの引落取引を「元本部分」と「利息部分」の二つに分けて記録します。返済額をそのまま一つの科目へ入れてしまうと、必要経費が過大または過小になります。
お金を借りたときの記帳
事業用の普通預金口座へ、事業資金として500,000円を借り入れた場合の代表例です。
借方:普通預金 500,000 / 貸方:借入金 500,000
- 預金は増えますが、これは売上ではありません。
- 同時に返済義務が生じるため、負債である「借入金」が同額増えます。
- 借入時の入金を雑収入として記帳しません。
借入金の元本を返済したときの記帳
借入金の元本50,000円を、事業用の普通預金から返済した場合の代表例です。
借方:借入金 50,000 / 貸方:普通預金 50,000
- この取引は、負債である「借入金」を減らす取引です。
- 元本返済は必要経費ではありません。
- お金を支払ったからといって、その支払額をそのまま経費とはしません。
借入金の利息を支払ったときの記帳
事業のための借入金にかかる利息3,000円を、事業用の普通預金から支払った場合の代表例です。
借方:利子割引料 3,000 / 貸方:普通預金 3,000
- ここでの利息は、事業のための借入金にかかるものを前提としています。
- 代表的な勘定科目名は「利子割引料」です。
- 使用している会計ソフトによって表示される科目名等が異なる場合があります。その場合は、ソフトの公式ヘルプで確認してください。
元本と利息をまとめて返済したときの記帳
実務では、毎月の引落額に元本と利息がまとめて含まれていることが多くあります。引落額53,000円の内訳が、元本50,000円・利息3,000円だった場合の代表例です。
借方:借入金 50,000・利子割引料 3,000 / 貸方:普通預金 53,000
- 引落額53,000円を、丸ごと必要経費にしません。
- 返済予定表や返済明細等で、元本と利息の内訳を確認したうえで分けて記帳します。
- 元本部分は借入金残高の減少として、利息部分は費用として、それぞれ別に記録します。
これが、借入金の記帳で最も基本となる考え方です。毎回の返済で、まずこの二行に分けられるかどうかを確認してください。
事業用と私用が混ざる借入金の扱い
借入資金の全部が事業用とは限りません。事業と私用の両方に使った借入金では、利息の全額を事業所得の必要経費に入れることはできません。取引記録や資金の使いみち等に基づき、業務上直接必要な部分を合理的に区分してください。
- 借入資金が事業専用である場合:事業に対応する利息を必要経費として扱います。
- 借入資金が一部私用である場合:事業に対応する部分と私用に対応する部分を分けます。
- 事業分の区分根拠がはっきりしない場合:全額を機械的に必要経費とせず、資金の使いみちを確認してください。
按分の具体的な計算方法や比率は、取引ごとの事情によって異なるため、本ページでは独自の計算例を示しません。区分の根拠となる資料(借入申込書、資金使途に関する記録等)を残しておくことが重要です。
私用資金・事業用資金が混ざる支払い
借入金の返済や利息の支払いで、事業用の資金と私用の資金が入れ替わって使われることがあります。
私用の口座から、事業のための借入金利息を立て替えて支払った場合、代表例は次のとおりです(3,000円全額が事業分の利息として処理すべき取引である場合の例です)。
利子割引料 3,000 / 事業主借 3,000
反対に、事業用の口座から私用部分の返済を支払った場合は、事業主貸が関係することがあります。
事業主貸・事業主借の詳しい考え方や仕訳は、本ページの範囲を超えるため、事業主貸・事業主借の記帳を扱う別記事に委ねます。ここでは、事業分の費用を消さずに記録し、資金の出どころが事業用か私用かによって相手科目が変わり得ることを押さえてください。
年末に借入金残高を確認する
年末には、少なくとも次を確認してください。
- 借入金の期末残高が、返済予定表や金融機関等の資料と一致しているか
- 借入時の入金を売上・雑収入に入れていないか
- 元本返済を必要経費に入れていないか
- 毎月の返済額を元本と利息に分けているか
- 利息だけが利子割引料等の費用科目に入っているか
- 私用部分の利息を必要経費に混ぜていないか
- 事業主貸・事業主借を使うべき私用資金とのやり取りがないか
- 決算日までに発生しているが未払いの利息がないか
- 借入手数料・保証料等を、利息と同じものとして機械的に処理していないか
- 借入金残高がマイナスなど、不自然な状態になっていないか
決算日までに事業上の利息が発生しているものの、まだ支払っていない場合は、記帳方式や発生状況に応じて未払費用等の処理が関係することがあります。詳しい計上方法は、未払費用・未払金の記帳を扱う別記事に委ねます。本ページでは、返済日だけを見て年末の利息を判断しないことを押さえてください。
よくある間違い
- 借入金の入金を売上として記帳してしまう
- 毎月の返済額全体を必要経費として記帳してしまう
- 元本と利息を分けずに、一つの経費科目でまとめて処理してしまう
- 利息の支払いを、誤って借入金元本の増減として記帳してしまう
- 事業用と私用が混在していることを無視して、利息の全額を必要経費にしてしまう
- 返済予定表と帳簿上の借入金残高を照合しないまま記帳を続けてしまう
- 借入手数料や保証料を、自動的に利息と同じものとして経費処理してしまう
判断が難しい場合
会計ソフトの勘定科目に入力しただけで税務上の結論が決まるわけではありません。自分の借入金について結論が出せない場合は、次を整理したうえで会計ソフトの公式サポートや税務署・税理士等へ確認してください。
- 借入契約の内容
- 資金の使いみち
- 借入金の入金先口座
- 返済方法
- 毎回の返済額
- 返済額に含まれる元本と利息の内訳
- 事業利用分と私用分の割合
- 手数料・保証料等の有無
- 年末時点の借入金残高
- 使用している帳簿・会計ソフト
チェックリスト
相談先
| 相談先 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 使用している会計ソフトの公式サポート | 借入金の勘定科目名・補助科目の設定方法、一つの引落取引から元本と利息を分けて入力する方法、借入金残高の確認方法、自動連携機能で返済額全体が誤って経費計上されていないかの確認方法、私用口座から返済した場合の入力方法 |
| 税務署・税理士等 | 借入資金の事業利用割合の考え方、事業用・私用が混在する場合の利息区分、借入手数料・保証料・信用保証料等の個別の税務処理、開業前に借り入れた資金の利息の扱い、親族間の貸し借り・借換え・外貨建て借入等の特殊な取引、過去に返済額全体を誤って経費計上していた場合の訂正方法 |
公式情報
次の国税庁の公式情報で、必要経費・利子割引料・記帳・決算の基本を確認できます。