相続税を物納する
対象読者:相続税の申告・納付額が判明しており、金銭一括納付だけでなく延納によっても納付が難しい人 更新日:2026年9月26日
概要
相続税は、金銭で期限までに納付することが原則です。物納は、延納によっても金銭で納付することが難しい場合に、一定の相続財産・順位・期限等の要件を満たし、税務署長の許可を受けることで利用できる例外的な制度です。
物納の対象になるのは相続税に限られます。物納に充てられる財産には種類ごとの順位があり、担保権が付いている財産や境界が明らかでない財産など、物納できない財産・後順位でしか扱えない財産もあります。また、物納候補となる不動産等は、境界・登記・担保権・共有関係などの整備に時間がかかります。
このページでは、物納を検討する際に確認すべき要件、財産の順位、申請期限と手順、必要書類、相談先までを順に案内します。物納の許可を保証するものではなく、個別の許可限度額や申請財産の適格性を確定するものでもありません。
このページで分かること
- 物納を申請できる主な要件
- 物納に充てられる財産の種類と順位
- 物納できない財産・後順位になる財産
- 物納の申請期限と基本的な手順
- 必要書類、審査、収納価額の考え方
- 相談先
この前に確認する
物納は、相続税額・申告期限を確認し、金銭による一括納付や延納による納付が難しいことを確認した後に検討する制度です。まだ相続税額や申告期限、延納の可否を確認していない場合は、上記のページを先にご確認ください。
最初にやること
- 相続税額のうち、金銭で納付できる額と延納で納付できる額を整理します。
- 物納申請期限を確認します。
- 物納候補となる相続財産を洗い出します。
- 候補財産の境界・登記・担保権・共有・賃貸借等の状態を確認します。
- 期限前に、所轄税務署または税理士へ相談します。
物納候補の不動産等は、境界・登記・担保権・共有関係などの整備に時間がかかります。申告期限を待たずに、早めに相談してください。
物納を申請できる主な条件
物納を申請するには、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難な金額の範囲内であること 金銭一括納付だけでなく、延納による分割納付でも納付が難しいことが前提です。
- 物納申請財産が、相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産で、日本国内に所在し、法定の種類・順位に従っていること 相続時精算課税の適用を受けた財産や、一定の納税猶予特例の適用を受けた財産、相続税の課税価格計算の基礎となっていない財産、日本国外にある財産は対象になりません。
- 管理処分不適格財産に該当せず、物納劣後財産を申請する場合は他に適当な財産がないこと
- 物納申請期限までに、物納申請書と物納手続関係書類を提出すること
これらは、相続した財産であれば自由に選べるという制度ではなく、要件と順位に沿って審査を受ける制度です。
物納できる金額の範囲
物納できるのは、納付すべき相続税額の全額とは限りません。
納付すべき相続税額から、金銭で納付可能な金額と、延納で納付可能な金額を差し引いた範囲が基本になります。この判断には、現金・預貯金等だけでなく、換価しやすい財産や、申請者自身の固有財産も考慮され、生活費・事業継続に必要な一定額も考慮されます。
なお、令和7年4月1日以後に相続が開始した場合は、この計算方法に改正があります。相続開始日に応じて、最新の資料を確認してください。
個別の許可限度額の計算は、このページでは行いません。金銭納付を困難とする理由書の作成や、国税庁の資料、所轄税務署への確認を通じて整理してください。
物納に充てられる財産と順位
物納に充てられる財産には、次の順位があります。後順位の財産は、特別な事情がある場合や、先順位に適当な価額の財産がない場合等に限られます。
| 順位 | 財産の種類 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債・地方債、上場株式等(このうち物納劣後財産に当たるものを除く) |
| 第2順位 | 非上場株式等(このうち物納劣後財産に当たるものを除く) |
| 第3順位 | 動産 |
登録美術品には一定の特例がありますが、詳細は国税庁の資料や所轄税務署への確認に委ねます。
物納できない財産・後順位になる財産
物納できない財産と、条件付きで物納候補になる財産は、性質が異なります。混同しないよう区別して確認してください。
管理処分不適格財産
原則として物納できない財産です。不動産の代表例は次のとおりです。
- 担保権等が付いている
- 権利の帰属に争いがある
- 土地の境界が明らかでない
- 通常の使用に争訟が必要となる
- 共有財産である
- 国が債務を引き継ぐことになる
- 引渡しに必要な通常の措置が完了していない
株式の代表例は次のとおりです。
- 必要な譲渡手続が済んでいない
- 譲渡制限がある
- 担保権が付いている
- 権利帰属に争いがある
- 共有である
上記は代表例であり、すべての類型を網羅するものではありません。詳細は国税庁の資料で確認してください。
物納劣後財産
管理処分不適格財産とは異なり、直ちに物納できないわけではありません。ただし、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り申請できます。接道条件、法令違反建築、特殊用途建物、一定の土地・株式等が該当し得ますが、個別の該当性は所轄税務署への確認が必要です。
状況別
不動産を物納したい場合
境界、権利関係、担保権、共有、賃貸借、登記、引渡しに必要な措置を確認してください。相続登記等が未了の場合は、早めに専門家・税務署へ相談してください。登記手続そのものについては「相続登記をする」をご確認ください。
非上場株式を物納したい場合
非上場株式等は第2順位の財産です。譲渡制限、担保権、共有、権利争い等がないか確認してください。個別の評価や会社関係書類については、専門家への確認が必要です。
書類が期限までにそろわない場合
物納手続関係書類が物納申請期限までに間に合わない場合は、期限延長届出書を提出することで、1回につき3か月、最長1年まで延長できます。ただし、これは関係書類の提出期限に関する制度であり、物納申請書そのものの提出期限が延びるわけではありません。物納申請書は期限内に提出する必要があります。
遺産分割が終わっていない場合
所有権の帰属が確定していない財産は、管理処分不適格財産に当たる可能性があります。未分割の財産をそのまま物納できると決めつけず、期限前に税務署・税理士へ相談してください。
物納申請が却下された場合
却下の理由により、再申請または延納申請への変更ができる場合があります。管理処分不適格財産に該当することを理由に却下された場合は、却下日の翌日から20日以内に、他の財産で1回に限り再申請できます。延納によっても納付困難という要件を満たさないとして却下された場合は、当該税額について延納申請へ変更できる場合があります。通知後の期限は短いため、通知を受けたらすぐに所轄税務署へ確認してください。
延納許可後に物納へ変更したい場合
すでに延納の許可を受けた後に、延納条件の履行が難しくなった場合は、通常の物納ではなく「特定物納」という別の制度が関係します。特定物納は、申請期限・収納価額・対象財産等が通常の物納と異なります。詳細は「相続税を延納する」および国税庁の公式情報でご確認ください。
手順
物納を検討する際の一般的な流れは、次のとおりです。
- 相続税額と、金銭で納付できる資金を整理します。
- 延納によって納付できる額を検討します。
- 物納できる金額の範囲を検討します。
- 物納候補となる財産と、その順位を確認します。
- 管理処分不適格財産・物納劣後財産に当たらないか確認します。
- 所轄税務署等へ事前に相談します。
- 物納申請書、理由書、財産目録、関係書類を準備します。
- 物納申請期限までに提出します。
- 現地調査、書類補完、財産整備に対応します。
- 許可後、通知に従って財産を国へ引き渡します。
事前相談は必須の法定要件ではありませんが、財産整備や書類準備には時間がかかるため、早い段階で相談することを強くおすすめします。
期限・いつまでに
**物納申請期限:期限内申告の場合、相続税の申告期限までです。**相続税の申告期限自体の計算方法は「相続税を申告・納付する」でご確認ください。
更正・決定、期限後申告、修正申告の場合は、期限内申告の場合と期限が異なります。所轄税務署へ確認してください。
物納手続関係書類は、原則として物納申請書と同時に提出します。間に合わない場合は、物納申請期限までに「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出することで、1回につき3か月、最長1年まで延長できます。この延長は関係書類の提出期限に関する制度であり、物納申請書そのものの提出期限を延ばすものではありません。
税務署から補完通知や収納関係の措置に関する通知を受けた場合は、通知で指定された期限までに対応してください。所定の延長届出が用意されている場合もありますが、一律の期限をここでは示しません。
管理処分不適格財産に該当することを理由に却下された場合は、通知日の翌日から20日以内に、他の財産で1回に限り再申請できます。
期限が近い場合は、このページの内容だけで判断せず、直ちに所轄税務署へ確認してください。
必要なもの
必要書類は、相続開始日、財産の種類、権利関係によって異なります。すべてを一律に必須と考えず、該当するものを確認してください。
原則必要となるもの
- 相続税物納申請書
- 金銭納付を困難とする理由書
- 物納財産目録
- 物納手続関係書類
- 財産の種類に応じたチェックリスト
- その他、税務署から求められる書類
状況により必要となるもの
- 土地・家屋用、有価証券用、動産用等の財産目録
- 登記事項証明書
- 地積測量図・境界関係書類
- 建物図面
- 担保権抹消・賃貸借・共有関係等に関する書類
- 物納劣後財産等を物納に充てる理由書
- 小規模宅地等を分割して物納する場合の確認書
- 被相続人と共有していた不動産に関する確認書
- 物納手続関係書類提出期限延長届出書
- 税務署からの補完通知・措置通知に対応する書類
申請先
物納の申請先は、物納しようとする相続税の納税地を所轄する税務署長です。読者向けには、相続税の申告書を提出した所轄税務署とご案内できます。
審査・財産整備・許可後
物納申請書を提出すると、税務署による書類審査や現地調査が行われます。書類の補完や財産の整備を求められる場合があります。
審査は、原則として物納申請期限から3か月以内に許可または却下の判断が行われます。ただし、申請財産の状況によっては、この期間が最長9か月延長される場合があります。書類の補完や、申請者自身による財産整備にかかる期間等は別途影響することがあるため、手続の完了時期を一律に断定することはできません。
許可を受けた後は、通知に従って所有権移転登記等の手続と財産の引渡しを行います。必要な書類の提出や措置が完了しない場合は、却下やみなし取下げ等の扱いになる場合があります。
収納価額
物納する財産の収納価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となった財産の価額です。小規模宅地等の特例の適用を受けた財産については、原則として特例適用後の価額が収納価額になります。
これは、市場での売却価格や時価で国が買い取る制度ではありません。個別の収納価額については、税務署・税理士へ確認してください。
相談先
所轄税務署・国税局電話相談センター
- 物納制度・要件・申請期限について
- 必要な様式について
- 申請財産の順位・適格性に関する事前確認
- 補完通知・財産整備・審査手続について
税理士
- 物納許可限度額の整理
- 金銭納付能力・延納可能額の整理
- 相続税申告との整合性の確認
- 財産選択・収納価額・税務上の影響についての相談
- 申請書・理由書等の作成支援
必要に応じた不動産関係の専門家
- 司法書士:相続登記、担保権抹消等の手続
- 土地家屋調査士:境界の確定、測量、地積・建物表示等
専門家への依頼が一律に必須というわけではありませんが、不動産の物納は整備すべき事項が多いため、早めに相談することが有用です。
公式リンク
- 国税庁「No.4214 相続税の物納」
- 国税庁「延納・物納申請等」
- 国税庁「相続税の物納の手引(手続編)」
- 国税庁「相続税の物納の手引(整備編)」
- 国税庁「相続税・贈与税の延納・物納申請等の様式一覧」
- 国税庁「物納に関するQ&A」
- 国税庁「物納許可限度額等の計算方法が変わりました」
- 国税庁「国税に関するご相談について」
- 国税庁「国税局・税務署を調べる」
注意点
- 物納は、相続税に限って認められる制度です。
- 金銭一括納付だけでなく、延納によっても納付が困難であることが前提になります。
- 相続した財産であれば何でも物納できるわけではありません。
- 物納に充てられる財産には、法定の順位があります。
- 管理処分不適格財産と物納劣後財産は異なる扱いです。混同しないでください。
- 未分割・共有・担保権付き・境界不明等の財産は、物納の対象として問題になりやすいものです。
- 物納申請書の提出期限と、関係書類の提出期限延長制度は、別のものです。混同しないでください。
- 収納価額は、市場での売却価格ではなく、原則として相続税評価額です。
- 書類の訂正や財産整備の期間等には、利子税がかかる場合があります。
- 自ら申請を取り下げた場合は、延滞税がかかります。
- 許可後も、財産の瑕疵等への対応を求められることがあり、一定の場合には許可が取り消されることもあります。
- 特定物納は、通常の物納とは別の制度です。