相続で個人事業を引き継いだときの開業届を確認する

概要

個人事業を行っていた家族などが亡くなり、その事業を相続で引き継ぐ場合、死亡した人側の届出とは別に、事業を引き継ぐ相続人自身についても所得税の「個人事業の開業・廃業等届出書」を確認する必要があります。

死亡した事業者側では「廃業」、事業を引き継ぐ相続人側では「開業」として扱われ、様式の名称は同じでも区分が異なります。同じ届出書を使うからといって、一枚の書類で両方が完了するわけではありません。

このページでは、相続人自身が開業届を確認すべきかどうか、死亡した人側の届出とどう違うか、いつまでに確認するか、開業日をどう考えるかを、順を追って確認できるようにします。

このページで分かること

  • 相続人自身が開業届を確認すべきかどうか
  • 死亡した人側の廃業届と、相続人側の開業届の違い
  • 開業届を確認・提出する現行の期限
  • 開業日・事業を引き継いだ日をどう考えるか
  • すでに自分の個人事業がある場合に確認すること
  • 複数の相続人がいる場合・遺産が未分割の場合に確認すること
  • 青色申告を希望する場合に別に確認すべき期限
  • 開業届以外に相続時に確認しておく税務手続の有無

対象読者

  • 個人事業者だった家族などが死亡し、その事業の全部または一部を引き継ぐ相続人
  • 相続前は個人事業をしていなかった人
  • 相続前から自分でも個人事業をしていた人
  • 「被相続人の廃業届を出せば自分の開業届は不要ではないか」と迷っている人
  • 開業届の期限を「開業から1か月以内」だと認識している人
  • 複数相続人がいる、または遺産が未分割で、誰が事業を引き継ぐか確定していない人
  • 開業日・事業を引き継いだ日として何日を書けばよいか迷っている人

更新日

更新日:2026年9月26日

最初に確認すること

まず、被相続人(死亡した事業者)の事業を、自分が引き継いで行うかどうかを確認します。

事業を引き継いで行う場合は、相続人自身について所得税の開業届を確認する対象になります。事業を引き継がない場合は、この記事が案内する「相続人側の開業届の確認」という行動そのものは対象外です。ただし、その場合でも、被相続人側の死亡・廃業に関する届出や準確定申告などが不要になるわけではありません。

事業を引き継ぐかどうかがまだ決まっていない場合や、複数の相続人がいて誰が引き継ぐか確定していない場合は、後述の「複数の相続人・遺産未分割の場合」および「判断できない場合」を確認してください。

相続で事業を引き継いだときに確認する開業届

国税庁は、個人事業者が死亡した場合について、相続人が「個人事業の開業・廃業等届出書」を確認するよう案内するとともに、事業を引き継ぐ方については「開業する場合」もあわせて確認するよう明示しています。

つまり、死亡した事業者側の届出を確認するだけでは終わりません。事業を引き継いで自分の事業として始める相続人は、自分自身についても開業側の届出を確認する必要があります。

この記事は、一般的な開業届の提出方法そのものを詳しく説明することを目的としていません。相続という特殊な場面で、「何を開業として確認し、どの届出へ進むか」という判断に絞って案内します。提出方法の詳細な手順は、一般の開業届の記事で確認してください。

死亡した人の廃業届と相続人の開業届は別に考える

死亡した事業者側と、事業を引き継ぐ相続人側は、それぞれ別の側面として整理します。

  • 被相続人側:死亡・事業終了の事実についての届出(廃業側)
  • 相続人側:自分が事業を引き継いで開始する側の届出(開業側)

現行の「個人事業の開業・廃業等届出書」には、届出区分として「開業」「廃業」が別に設けられています。さらに、開業側には事業の引継ぎを受けた場合の相手方を記載する欄が、廃業側には事業の引継ぎ(譲渡)による場合の相手方を記載する欄が、それぞれ用意されています。

このように、様式の名称は同じでも、区分・記載内容・提出する人が異なります。同じ正式名称の届出書を使うことだけを理由に、一つの届出で被相続人側と相続人側の両方が完了するとは考えないでください。

両者の違いを整理すると、次のとおりです。

比較軸 被相続人側 相続人側
誰についての届出か 死亡した個人事業者 事業を引き継ぐ相続人本人
届出区分 廃業側 開業側
基準となる事実 死亡・事業終了 相続人自身の事業開始・承継
期限 死亡した年分の所得税の確定申告期限 事業の開始等の事実があった日の属する年分の所得税の確定申告期限

被相続人側の死亡時の届出については、国税庁は相続人を対象者として案内しています。相続人側の開業届は、相続人自身について確認します。両者の記載内容を混同しないでください。所轄の税務署が被相続人側と同一とは限らないため、相続人側は自分の納税地を所轄する税務署を確認してください。

なお、既存の「個人事業の廃業届を提出する」の記事は、事業主が死亡した場合を通常の廃業手続の対象外としています。被相続人側の死亡に伴う届出については、国税庁の「廃業する場合」の案内を確認してください。

開業届の対象になるか確認する

被相続人の事業を相続によって引き継ぎ、自分の事業として開始する場合、相続人は所得税の開業届(開業側の「個人事業の開業・廃業等届出書」)の対象になります。

相続前に個人事業をしていなかった人が、被相続人の事業を引き継いで自分の事業として始める場合は、この開業側確認の中心的な対象になります。

一方、相続前から自分でも個人事業をしている場合は、一律に「開業区分の対象になる」とも「対象にならない」とも、この記事だけで断定しません。承継した事業の内容や事業所の新設などを整理して確認する必要があるため、「すでに自分の個人事業がある場合」を確認してください。

事業を引き継がない場合は、この開業側の確認は対象外です。対象外となる条件は「状況別」のIで案内します。

すでに自分の個人事業がある場合

相続前から自分でも個人事業をしていた場合、「すでに開業届を提出しているから、今回は何も確認しなくてよい」とは限りません。

過去に別の事業について開業届を提出済みであることと、今回、相続によって新たに承継した事業・事業所等について届出が必要かどうかは、別の確認事項です。承継した事業の内容、所得の種類、事業所の新設の有無などによって、追加の届出が必要になる場合があります。

相続固有の一律の結論はここでは確定できないため、次の内容を整理したうえで、自分の納税地を所轄する税務署に確認してください。

  • 相続前から行っていた既存事業の内容
  • 相続によって新たに承継した事業の内容
  • 事業所・事務所を新たに設けたかどうか
  • 承継した事業の所得の種類

複数の相続人・遺産未分割の場合

相続人が複数いる場合や、遺産分割が終わっていない場合は、最終的に事業を取得する人だけから、開業届を提出すべき相続人を独自に推定しないでください。

消費税については、未分割の場合に共同で承継したものとして扱う固有のルールが一次情報で確認できますが、これを所得税の開業届の提出者ルールとしてそのまま当てはめることはできません。所得税の開業届について、全員が提出するのか、代表者一人が提出するのか、実際に事業を運営している人が提出するのかを、この記事だけで一律に断定することはできません。

複数相続人・遺産未分割の状態で、誰が相続人側の開業届を提出するかが不明な場合は、次の内容を整理したうえで、相続人側の納税地を所轄する税務署に確認してください。

  • 相続人の範囲
  • 遺産分割の状況
  • 実際に事業を運営している人
  • 承継する財産・事業の内容
  • 承継の時期

期限・いつまでに

開業側と被相続人側では、期限の考え方が異なります。それぞれ別の手続として確認してください。

手続・確認 対象 期限
相続人側の開業届 事業を引き継ぎ、自分の事業として開始した相続人 事業の開始等の事実があった日の属する年分の所得税の確定申告期限まで
被相続人側の開業・廃業等届出書 事業者が死亡した場合の相続人 死亡した年分の所得税の確定申告期限まで

相続人側の開業届については、一般的に言われる「開業から1か月以内」という期限は、現行の期限として使用しないでください。相続人側・被相続人側とも、上表のとおり所得税の確定申告期限を基準とします。

期限が土曜日・日曜日・祝日などにあたる場合は、翌日が期限となります。具体的な年の日付は、暦を確認したうえで判断してください。

なお、すでに期限を過ぎている可能性がある場合でも、「もう提出しなくてよい」「さかのぼって必ず有効になる」などとこの記事だけで判断しないでください。どの届出か、事業開始・承継の日、いつ提出する予定か、青色申告など他に確認すべき手続があるかを整理したうえで、所轄の税務署に確認してください。

開業日・事業を引き継いだ日を確認する

開業届には、開業・廃業等日として、事業を開始した日(相続人側では事業を引き継いで開始した日)を記載する欄があります。

この日付を、死亡日または死亡日の翌日に独自に固定しないでください。実際に事業を引き継いだ時期は、死亡日とは異なる場合があります。特に、死亡後すぐに事業を引き継がず、一時的に営業を停止したあとで再開・承継した場合などは、日付の考え方が変わることがあります。

開業日・事業を引き継いだ日の記載に迷う場合は、次の内容を整理したうえで、自分の納税地を所轄する税務署に確認してください。

  • 被相続人の死亡日
  • 実際に業務を引き継いだ日
  • 営業を停止していた期間の有無
  • 遺産分割が成立した日
  • 事業を再開・承継した日

開業届に記載する主な内容

現行の「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業側)には、主に次のような項目があります。

  • 提出先の税務署・提出日
  • 納税地(自分の住所地など)
  • 氏名・生年月日・個人番号
  • 職業・屋号
  • 届出の区分(開業)
  • 事業の開始等の事実があった日
  • 所得の種類
  • 事業の概要
  • 事業を引き継いだ相手方(被相続人)に関する記載欄
  • 給与等の支払の状況などの関連事項

相続によって事業を引き継いだ場合は、事業の引継ぎを受けた相手方として被相続人の情報を記載する欄がある点が特徴です。事業の一部だけを承継した場合の具体的な記載方法は、現行様式を確認したうえで、必要に応じて税務署に確認してください。

提出する場合の次の行動

相続人側の開業届を提出する場合、届出区分は「開業」を選択し、提出先は自分(相続人)の納税地を所轄する税務署です。被相続人の税務署と同じとは限らないため、必ず自分の納税地で確認してください。

提出方法にはe-Tax、郵送、税務署窓口への持参などがあります。具体的な提出方法・記入方法の詳細な手順は、一般の開業届の提出手続を扱う記事で確認してください。

青色申告をしたい場合は期限を別に確認する

青色申告を希望する場合は、開業届の期限だけを見て後回しにしないでください。青色申告承認申請の期限は、開業届の期限より早く到来することがあります。

相続時の青色申告承認申請の期限は、被相続人が白色申告者だったか、青色申告者だったかによって異なります。

被相続人の申告区分 条件 青色申告承認申請の期限
白色申告者 その年の1月15日までに業務を承継した場合 その年の3月15日まで
白色申告者 その年の1月16日以後に業務を承継した場合 業務を承継した日から2か月以内
青色申告者 死亡が1月1日〜8月31日の場合 死亡した日から4か月以内
青色申告者 死亡が9月1日〜10月31日の場合 その年の12月31日まで
青色申告者 死亡が11月1日〜12月31日の場合 翌年の2月15日まで

被相続人が青色申告者だったからといって、相続人も自動的に青色申告者になるわけではありません。相続人自身が青色申告を行うには、相続人自身について青色申告承認申請を確認する必要があります。

また、相続時の青色申告承認申請の期限を、一律に「承継日から2か月以内」と考えないでください。被相続人が白色申告者であっても、その年の1月15日までに業務を承継した場合は、承継日から2か月以内ではなく、その年の3月15日までとなります。被相続人が青色申告者だった場合は、上表のとおり死亡した時期に応じて期限の区分が異なります。

相続時にあわせて確認する税務手続

開業届を提出したからといって、次の手続が自動的に完了するわけではありません。それぞれ別の手続として、必要に応じて個別に確認してください。

  • 準確定申告:死亡した人のその年の所得税の申告です。相続人側の開業届とは別の手続です。
  • 消費税の納税義務:相続によって事業を引き継いだ場合の消費税の納税義務は、所得税の開業届とは別に確認が必要な事項です。共同相続時の扱いなど、所得税とは異なるルールがあります。
  • インボイス登録:被相続人がインボイス発行事業者だった場合、その登録が相続人へそのまま引き継がれるわけではありません。相続時のインボイス登録について別に確認が必要です。

これらの詳細は、それぞれの手続を扱う記事や国税庁の公式情報で確認してください。

状況別

自分の状況に近いものを確認してください。

A.相続前は個人事業をしておらず、事業を引き継ぐ 相続人側の開業届の中心的な対象です。「開業届の対象になるか確認する」以降の内容にそって確認を進めてください。

B.相続前から自分でも個人事業をしている 既存の開業届提出済みであることだけで判断を終えず、「すでに自分の個人事業がある場合」を確認してください。

C.被相続人側の廃業関係手続をまだ確認していない 相続人側の開業届の確認とあわせて、被相続人側の死亡・廃業に関する届出も別に確認してください。「死亡した人の廃業届と相続人の開業届は別に考える」を参照してください。

D.被相続人が青色申告者で、自分も青色申告をしたい 一般的な2か月以内という期限をそのまま適用せず、「青色申告をしたい場合は期限を別に確認する」の被相続人が青色申告者の場合の期限区分を確認してください。

E.被相続人が白色申告者で、自分は青色申告をしたい 業務を承継した日が、その年の1月15日までか、1月16日以後かによって、青色申告側の期限が異なります。「青色申告をしたい場合は期限を別に確認する」を参照してください。

F.複数相続人・遺産未分割である 実際に事業を運営している人だけを手続の主体と決めつけず、「複数の相続人・遺産未分割の場合」を確認してください。

G.死亡後すぐには事業を引き継がず、後から開始・再開した 開業日を死亡日や死亡日の翌日に固定せず、「開業日・事業を引き継いだ日を確認する」の内容を確認してください。

H.被相続人が消費税の課税事業者・インボイス発行事業者だった 所得税の開業届とは別に、消費税・インボイスの死亡・承継に関する手続を確認してください。「相続時にあわせて確認する税務手続」を参照してください。

I.事業を引き継がない 相続人側の「事業承継による開業届の確認」という行動は対象外です。ただし、被相続人側の死亡・廃業・準確定申告などの必要な手続が不要になるわけではありません。

判断できない場合

この記事の内容だけで判断できない場合は、少なくとも次の内容を整理したうえで、所轄の税務署に相談してください。

  1. 被相続人の死亡日
  2. 被相続人が行っていた事業の内容
  3. 自分が引き継ぐ事業の全部・一部の別
  4. 実際に業務を始めた・引き継いだ時期
  5. 相続人の人数と遺産分割の状況
  6. 自分が相続前から個人事業を行っていたかどうか
  7. 被相続人が青色申告者だったかどうか
  8. 自分が青色申告・消費税・インボイス関係の手続を予定しているかどうか

これらを整理して相談することで、税務署から自分の状況に応じた具体的な案内を受けやすくなります。

相談先

相続人側の開業届や、判断できない事項については、自分(相続人)の納税地を所轄する税務署に相談してください。被相続人側の届出については、被相続人の納税地を所轄していた税務署が窓口になります。

税務署の所在地・受付時間などは、国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」で確認できます。

公式リンク

制度・手続の詳細は、次の現行の公式情報で確認してください。

注意点

  • 同じ様式名でも、開業側と廃業側は別のものとして扱ってください。混同しないよう注意してください。
  • 相続人側の開業届を、被相続人の名義で作成しないでください。被相続人側の死亡時の届出については、国税庁が相続人を対象者としていることまでは案内されていますが、具体的な記載名義を本文だけで断定していません。
  • 被相続人側と相続人側で所轄の税務署が同一とは限りません。相続人側は自分の納税地を確認してください。
  • 「開業から1か月以内」という古い期限を使わないでください。
  • 開業日を死亡日や死亡日の翌日に決め打ちしないでください。
  • すでに個人事業を行っている場合でも、今回の承継について一律に確認不要とはしないでください。
  • 複数相続人・遺産未分割の場合、実際に事業をしている一人だけを手続の主体と決め打ちしないでください。
  • 被相続人の青色申告の承認は、相続人へ自動的に引き継がれるものではありません。
  • 青色申告の相続固有の期限を、一般的な開業届の期限で置き換えないでください。
  • 開業届の期限まで待って、青色申告承認申請の期限を過ぎないよう注意してください。
  • 消費税・インボイスの届出の効力を、所得税の開業届と混同しないでください。
  • 準確定申告の期限を、相続人側の開業届の期限として扱わないでください。
  • 都道府県・市区町村の事業開始届など、地方税側の届出は国税の開業届だけでは完了しません。別に確認してください。
  • 税務署への確認に委ねた事項について、「原則」「一般的には」などと自己判断で一般化しないでください。

よくある間違い

  1. 被相続人の廃業届を出せば、相続人の開業届は不要だと思い込む。
  2. 同じ様式なので、一枚で被相続人の廃業と相続人の開業を同時に処理できると思い込む。
  3. 相続人側の届出を、被相続人の名義で作成してしまう。
  4. 相続人側の提出先も、必ず被相続人の税務署だと思い込む。
  5. 開業届は相続後1か月以内に提出しなければならないと思い込む。
  6. 開業日を必ず死亡日にしなければならないと思い込む。
  7. 開業日を必ず死亡日の翌日にしなければならないと思い込む。
  8. 以前から個人事業をしているので、承継した新しい事業について何も確認しなくてよいと思い込む。
  9. 複数相続人がいても、実際に店舗・事業を動かしている一人が必ず手続の主体だと思い込む。
  10. 被相続人の青色申告の承認が、そのまま自分に引き継がれると思い込む。
  11. 相続時の青色申告承認申請は、常に承継日から2か月以内だと思い込む。
  12. 開業届の期限だけを見て、青色申告承認申請を後回しにしてしまう。
  13. 開業届を出せば、消費税やインボイスの手続も自動で処理されると思い込む。
  14. 消費税の共同相続のルールを、そのまま所得税の開業届にも当てはめてしまう。

チェックリスト

事業承継の確認

被相続人側と相続人側の分離

相続人自身の開業確認

別期限・別手続