消費税の課税事業者になるか確認する
概要
個人事業者は、対象となる年について消費税の課税事業者となるのか、それとも免税事業者のままでいられるのかを、事前に確認しておく必要があります。売上額だけを見て早合点すると、届出や申告の準備が遅れたり、逆に不要な思い込みで判断を誤ったりすることがあります。
この記事は、日本国内の個人事業者を対象に、基準期間の課税売上高だけでなく、特定期間、インボイス登録、課税事業者の選択、相続による事業承継、高額な資産の取得といった主要な判定経路を、順番に確認できるように整理したものです。
この記事は、課税事業者か免税事業者かを判定するための入口を案内するものであり、消費税額そのものの計算方法や、簡易課税制度・2割特例の選択については扱いません。判定の結果、課税事業者になることが分かった場合や、複雑な特例に該当する可能性がある場合は、それぞれ必要な次の確認先を案内します。
この記事を読むことで、対象年について「課税事業者になる基本条件を満たしているか」「免税事業者となる基本条件を満たしているか」「単純な売上基準だけでは判断できず、公式情報での確認が必要な状況にあるか」のいずれかを判断できるようになります。
このページで分かること
- 課税事業者になるかどうかを確認する際の基本的な流れ
- 個人事業者の基準期間の考え方と、課税売上高1,000万円の判定方法
- 基準期間の課税売上高だけでは判断できない場合に確認する特定期間の考え方
- インボイス発行事業者としての登録や、課税事業者選択届出書の提出が判定に与える影響
- 相続で事業を承継した場合や、高額な資産を取得したことがある場合の注意点
- 判定結果に応じて次に確認すべきこと
対象読者
この記事は、主に次のような日本国内の個人事業者を対象としています。
- 個人事業を始めたばかりの人
- 売上が1,000万円前後になり、消費税の扱いが気になっている人
- 前々年または前年上半期の売上を見て、課税事業者になるか確認したい人
- インボイス発行事業者として登録しており、課税事業者になっているか確認したい人
- 過去に消費税課税事業者選択届出書を提出したことがある人
- 相続によって事業を承継した人
- 過去に高額な事業用資産等を取得しており、免税事業者へ戻れるか分からない人
なお、この記事は法人を対象としていません。また、消費税額そのものの計算、消費税の確定申告書の作成・提出、インボイス登録の申請・取消し手続、簡易課税制度の選択については、この記事の主な対象としていません。
更新日
更新日:2026年10月2日
まず確認すること
「今年の売上が1,000万円を超えたかどうか」だけでは、対象年が課税事業者になるかどうかは決まりません。
まず、次の順番で確認します。
- 判定したい年(対象年)を決めます。
- インボイス発行事業者として登録されているかを確認します。
- 消費税課税事業者選択届出書を提出しているかを確認します。
- 基準期間の課税売上高を確認します。
- 基準期間で判断できない場合は、特定期間を確認します。
対象年の売上だけを見るのではなく、この順序で確認することで、判定の見落としを防ぐことができます。
課税事業者か確認する流れ
対象年について課税事業者か免税事業者かを確認する際は、次の流れで一つずつ確認します。
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 対象年を決める |
| 2 | インボイス発行事業者として登録されているか確認する |
| 3 | 課税事業者を自ら選択しているか確認する |
| 4 | 基準期間(原則として対象年の前々年)の課税売上高を確認する |
| 5 | 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるか確認する |
| 6 | 超えない場合は、特定期間(原則として前年1月1日から6月30日)を確認する |
| 7 | 特定期間の課税売上高、または利用できる場合は給与等支払額による判定を確認する |
| 8 | 新規開業で基準期間がない場合の扱いを確認する |
| 9 | 相続で事業を承継していないか確認する |
| 10 | 高額特定資産等、免税へ戻れない特例が関係しないか確認する |
| 11 | 以上を踏まえて、対象年の課税・免税を整理する |
| 12 | 課税事業者となる場合は、必要な届出・申告等の次の工程を確認する |
上から順に確認し、途中で「課税事業者になる」と判断できた場合は、課税・免税そのものの判定はそこで確定できます。ただし、課税事業者となった後の届出・申告や、今後免税事業者へ戻れる時期に関係する特例を確認する必要がある場合は、該当する後続項目も確認します。判断が難しい項目があった場合は、無理に結論を出さず、該当する見出しへ進んで確認します。
基準期間を確認する
個人事業者の基準期間は、原則としてその年の前々年です。つまり、対象年について確認したい場合は、対象年の2年前の1年間における課税売上高を確認することになります。
基準期間の途中で開業していた場合であっても、基準期間の課税売上高を12か月分に年換算することはありません。実際に基準期間中に発生した課税売上高で判定します。
対象年の売上が1,000万円以下であっても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、その対象年は課税事業者となり得ます。今年の売上が1,000万円を超えたことだけで、直ちに今年が課税事業者になるとは限りません。
基準期間の課税売上高を確認する
判定に使うのは、単純な売上高ではなく消費税上の課税売上高です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は、原則として課税事業者となります。
このとき、1,000万円ちょうどと、1,000万円を超える場合は区別して確認します。基準期間の課税売上高がちょうど1,000万円の場合は、この基準だけでは課税事業者になりません。「1,000万円を超えるかどうか」を基準に確認します。
基準期間に自分が免税事業者であった場合、その期間の売上げには消費税が含まれていません。そのため、基準期間が免税事業者であった年の課税売上高を1,000万円判定に用いる際、税抜処理を行う必要はありません。
課税売上高に含めるもの・含めないもの
課税売上高の判定では、確定申告書上の総売上金額をそのまま用いるのではなく、消費税の課税対象となる取引の売上げを基準にします。
輸出取引などの免税取引は、消費税率が0%であっても課税売上高に含めます。輸出だから課税売上高から除く、という扱いはしません。
一方、土地の譲渡や住宅家賃、社会保険診療報酬などの非課税取引に係る収入は、原則として課税売上高に含めません。また、そもそも消費税の対象とならない不課税取引も、課税売上高には含めません。
本業の売上だけでなく、事業活動に付随する課税取引が課税売上高に関係することがあります。たとえば、事業用の建物や設備などを売却した場合の売上げを、単純に判定から除外しないよう注意します。
特定期間を確認する
基準期間の課税売上高だけでは課税事業者にならない場合でも、特定期間の確認が必要です。個人事業者の特定期間は、原則として前年1月1日から6月30日までです。前年1年間ではなく、前年の上半期であることに注意します。
特定期間の課税売上高・給与等支払額を確認する
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の判定によって課税事業者となる場合があります。特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は、対象年から課税事業者となります。
特定期間の判定では、利用できる場合、課税売上高に代えて給与等支払額を用いることができます。特定期間中に支払った給与等の合計額で判定することもできるため、課税売上高だけで判断を固定しないようにします。課税売上高と給与等支払額のどちらも1,000万円を超えていなければ免税になれない、という意味ではありません。いずれか一方の基準で1,000万円を超えなければ、この判定では課税事業者になりません。
なお、令和6年10月1日以後に開始する課税期間について、課税期間初日に国外事業者に該当する場合は、給与等支払額による代替判定を利用できません。この記事は主に国内の個人事業者を対象としており、国外事業者に該当する可能性がある場合は、公式情報で詳細を確認してください。
新規開業した場合
新規開業した個人事業者で、その課税期間について基準期間における課税売上高がない場合は、原則として納税義務が免除されます。
ただし、次のいずれかに該当する場合は、「開業して1年目・2年目は必ず免税」と単純に判断しないようにします。
- 課税事業者を選択している場合
- インボイス発行事業者として登録を受けている場合
- 特定期間による判定が成立する場合
- 相続等の特例が関係する場合
- そのほか、免税点制度が制限される特例が関係する場合
インボイス発行事業者として登録している場合
インボイス発行事業者として登録を受けている課税期間は、売上基準だけで免税事業者とは判断できません。基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、登録を受けている課税期間については課税事業者として扱われます。
免税事業者が課税期間の途中でインボイス発行事業者として登録を受けた場合は、登録日からその課税期間の末日までについて課税関係が生じます。「登録した年は1月1日から必ず課税事業者になる」とは限らないため、登録日を確認します。
インボイス発行事業者としての登録申請や登録取消しの具体的な手続については、この記事では扱いません。
課税事業者を自分で選択している場合
免税事業者であっても、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者となることを選択できます。
過去に消費税課税事業者選択届出書を提出している場合は、現在の売上だけで免税事業者と判断しないでください。過去に提出した届出書の効力が続いている限り、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、課税事業者として扱われます。
課税事業者となることを選択した場合、すぐに自由に免税事業者へ戻れるわけではありません。一定期間の継続適用や、不適用届出書の提出時期に関するルールがあります。また、選択後に調整対象固定資産等を取得した場合には、さらに免税事業者へ戻れない期間が関係することがあります。
「消費税課税事業者選択届出書を提出したことがあるか」「その後、不適用届出書を提出したか、対象となる資産を取得したか」を、確認の軸として残しておきます。
相続で事業を承継した場合
相続で事業を承継した場合は、相続人自身の売上だけでは判定できないことがあります。被相続人の事業を承継した年やその後の年について、被相続人側の基準期間における課税売上高が関係することがあるためです。
主な確認の入口は次のとおりです。
- 相続があった年は、相続人または被相続人の基準期間における課税売上高が関係します。
- 相続の翌年・翌々年についても、相続人と被相続人の基準期間における課税売上高の合計が関係する場合があります。
- 共同相続や遺産が未分割の場合は、判定がさらに複雑になります。
相続で事業を承継した場合は、一般的な基準期間の判定だけで結論を出さず、国税庁が案内する相続時の特例を確認してください。
高額な資産を取得したことがある場合
高額特定資産等を取得した場合は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者に戻れないことがあります。課税事業者であった課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合、その後の課税期間について、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても、事業者免税点制度が適用されないことがあるためです。
次のような場合は、売上基準だけで免税事業者に戻れると判断せず、詳細を確認します。
- 過去に課税事業者であった課税期間がある場合
- 一般課税で消費税の申告をした課税期間がある場合
- 1取引単位で税抜1,000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産等を取得したことがある場合
- 課税事業者を選択した後に、調整対象固定資産等を取得したことがある場合
これらに該当する可能性がある場合は、この記事の範囲を超える詳細な判定が必要になるため、国税庁の公式情報で確認してください。
判定結果ごとの次の行動
これまでの確認によって、対象年について課税事業者になるのか、免税事業者のままなのかを整理できます。
課税事業者になる場合は、判定の根拠(基準期間、特定期間、インボイス登録、課税事業者選択のいずれか)に応じて、必要な届出や準備が異なります。免税事業者となる基本条件を満たし、例外にも該当しない場合は、それ以上の対応は不要です。
課税事業者になった場合に確認すること
基準期間の課税売上高によって新たに課税事業者となる場合は、「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」が関係します。
特定期間の判定によって新たに課税事業者となる場合は、「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」が関係します。
インボイス発行事業者として登録を受けていることを理由に課税事業者となっている課税期間については、基準期間を理由とする「消費税課税事業者届出書」が常に必要になるわけではありません。登録による課税関係と、届出書の役割を混同しないようにします。
課税事業者となった場合は、次のような対応につながります。
- 消費税に関する帳簿や請求書等の保存
- 一般課税・簡易課税など課税方式の確認
- 必要に応じた簡易課税制度の確認
- 消費税の確定申告・納税の準備
課税事業者かどうかの判定と、実際に納める消費税額の計算は別です。課税事業者になったからといって、必ず消費税の納付税額が発生するとは限りません。具体的な税額計算や納税手続については、この記事の範囲外として別途確認してください。
免税事業者となる場合に確認すること
基準期間・特定期間の判定、インボイス登録、課税事業者選択、相続、高額特定資産等のいずれにも該当せず、免税事業者となる基本条件を満たしていることを確認できた場合は、少なくとも本記事で扱う「課税事業者になるかどうかの判定」を理由として、新たな課税事業者向けの届出・申告へ進む必要はありません。
このまま別の記事へ進む必要はなく、ここで確認を終えて差し支えありません。ただし、翌年以降も売上や取引の状況が変わることがあるため、対象年が変わるたびに、改めて同じ流れで確認することをおすすめします。
判断に迷う場合
インボイス登録、課税事業者選択、相続、高額特定資産等が関係し、単純な売上基準だけでは判断できないと感じた場合は、無理に結論を出さないようにします。
判断できない場合は、売上額だけで結論を出さず、該当する特例を国税庁の案内で確認します。判断に迷う状況が生じた時点で、この記事の「相談先」「公式リンク」を参考に、公式情報での確認へ進んでください。
よくある間違い
- 「課税売上高が1,000万円以上なら課税事業者」と覚えてしまう
- 今年の売上だけを見て、基準期間や特定期間を確認しない
- 総売上と課税売上高を同じものと考えてしまう
- 非課税取引を課税売上高に含めてしまう
- 輸出取引などの免税取引を課税売上高から除外してしまう
- 基準期間が免税事業者だった年の売上について、税抜処理をしてしまう
- 前々年の途中で開業した分の売上を12か月分に年換算してしまう
- 基準期間だけを確認し、特定期間を確認しない
- 特定期間を「前年1年間」と勘違いする
- 特定期間の判定で、給与等支払額による代替判定があることを知らない
- インボイス発行事業者として登録しているのに、免税事業者だと思い込む
- 過去に提出した消費税課税事業者選択届出書のことを忘れてしまう
- 新規開業なら必ず2年間は免税になると思い込む
- 相続で事業を承継したのに、自分自身の売上だけで判定してしまう
- 高額特定資産等による免税点制度の制限を見落としてしまう
- 消費税課税事業者届出書を「課税事業者になるための申請書」だと誤解する
- 課税事業者かどうかの判定と、消費税額の計算を混同してしまう
- 課税事業者になったら必ず納付税額が発生すると考えてしまう
チェックリスト
相談先
判定に迷う場合や、相続・高額特定資産等の複雑な特例が関係する場合は、国税に関する公的な相談窓口へ確認することができます。
- 所轄の税務署を確認する
- 国税に関する相談方法を確認する
- 税理士などの専門家
特定の税務署名や電話番号は、所在地や相談内容によって異なるため、上記の国税庁案内から確認してください。
公式リンク
この記事の内容に関連する公式情報は、次のページで確認できます。
- 国税庁 No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁 No.6121「納税義務者」
- 国税庁 No.6125「国内取引の納税義務者」
- 国税庁「特定期間の判定」
- 国税庁 消費税基本通達 第4節「納税義務の免除」
- 国税庁 消費税基本通達 第5節「納税義務の免除の特例」
- 国税庁 消費税基本通達 第7節「適格請求書発行事業者」
- 国税庁 No.6531「新規開業又は法人の新規設立のとき」
- 国税庁 No.6502「高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例」
- 国税庁 No.6602「相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について」
- 国税庁 No.6209「非課税と不課税の違い」
- 国税庁 No.6629「消費税の各種届出書」
- 国税庁「消費税の届出書等について(令和8年2月)」