相続で個人事業を引き継いだときの源泉所得税を確認する
概要
個人事業を営んでいた人が死亡し、家族などがその事業を引き継いだ場合、源泉所得税の扱いを一つの手続きとしてまとめて処理することはできません。
被相続人(亡くなった事業主)が死亡前に行っていた源泉徴収・納付の処理と、相続人が事業を引き継いだ後に自分の名義で行う源泉徴収は、別のものとして確認する必要があります。
被相続人が源泉徴収義務者であったとしても、その地位や納期の特例の承認が相続人へ自動的に引き継がれるとは限りません。
このページでは、相続で事業を引き継いだ人が、被相続人側に未処理の源泉所得税が残っていないか、そして相続人自身が新たに源泉徴収義務者になるかを、順番に確認できるように整理します。
具体的な源泉徴収税額の計算方法や、源泉所得税の納付操作そのものについては、このページでは扱いません。必要な場合は、該当する記事や国税庁の情報で確認してください。
このページで分かること
- 被相続人側の源泉所得税と、相続人側の源泉所得税を分けて考える理由
- 被相続人側に未処理の源泉所得税がないか確認する方法
- 相続人自身が源泉徴収義務者になるかどうかの確認方法
- 給与や青色事業専従者給与を支払う場合に確認すること
- 税理士等への報酬・料金等を支払う場合に確認すること
- 相続前から相続人自身が源泉徴収義務者だった場合の確認事項
- 納期の特例と相続の関係
- 給与支払事務所等の届出との関係
- 源泉所得税の納付期限の基本的な考え方
- 自分だけでは判断できない場合に、何をどこへ確認すればよいか
対象読者
- 個人事業者だった人が死亡し、その事業を引き継いだ相続人
- 被相続人が従業員や青色事業専従者へ給与を支払っていた場合の相続人
- 被相続人が税理士・弁護士等へ源泉徴収対象となる報酬を支払っていた場合の相続人
- 相続後も従業員等へ給与を支払う人
- 相続後に青色事業専従者給与を支払う人
- 相続後に税理士等へ報酬を支払う人
- 被相続人が源泉所得税の納期の特例を利用していた場合の相続人
- 相続前から別の事業で源泉徴収義務者だった人
- 被相続人側に未納の源泉所得税があるかどうか分からない人
- 被相続人の源泉所得税関係をそのまま引き継げると考えている人
更新日
更新日:2026年9月26日
まず被相続人側と相続人側を分ける
相続で事業を引き継いでも、源泉所得税に関する処理を「被相続人から相続人へそのまま名義変更する一つの手続き」として扱うことはできません。
まず、次の二つを分けて考えます。
- 被相続人が死亡前までに行っていた給与・報酬等の支払、源泉徴収、納付に関する処理
- 相続人が事業を引き継いだ後に、自分の名義で行う給与・報酬等の支払と源泉徴収
被相続人について相続開始時までに成立していた国税の納付義務等には、相続人が承継するものがあります。そのため、被相続人側の未処理分をそのままにしておくことはできません。
そのうえで、相続人が給与等や源泉徴収の対象となる報酬・料金等を支払う場合は、相続人自身について源泉徴収義務があるかを確認し、必要であれば源泉徴収・納付、給与支払事務所等の届出、納期の特例などの手続きへ進みます。
このページでは、次の10項目を確認しながら読み進めてください。
| 軸 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 被相続人は死亡前に給与等を支払っていたか |
| 2 | 被相続人は死亡前に源泉徴収対象となる報酬・料金等を支払っていたか |
| 3 | 被相続人が源泉徴収したまま未納の税額があるか |
| 4 | 死亡時点で未処理の徴収高計算書・納付・年末調整等が残っているか |
| 5 | 相続人は事業承継後に給与等を支払うか |
| 6 | 相続人は事業承継後に源泉徴収対象となる報酬・料金等を支払うか |
| 7 | 相続人自身は相続前から源泉徴収義務者だったか |
| 8 | 被相続人は納期の特例を利用していたか |
| 9 | 相続人自身は納期の特例の承認を受けているか |
| 10 | 被相続人側と相続人側の支払日・支払者・対象期間を分けられるか |
被相続人側に未処理の源泉所得税がないか確認する
被相続人が死亡前に給与・報酬等を支払い、源泉徴収を行っていた場合は、次を確認します。
- 被相続人が最後に実際に支払った給与・報酬等
- その支払時に源泉徴収した税額
- その税額を納付済みかどうか
- 被相続人が納期の特例を利用していたかどうか
- 未提出・未納の徴収高計算書等が残っていないか
- 死亡前に成立していた国税として、相続人が承継する処理があるかどうか
被相続人が死亡したことによって、源泉所得税の納付義務そのものがなくなるわけではありません。相続開始時までに被相続人について成立していた国税には、国税通則法上、相続人が承継するものがあります。
被相続人側に未納・未処理の源泉所得税があると分かった場合は、「相続による国税の納付義務の承継」として、所轄税務署へ確認したうえで必要な納付へ進みます。
相続人自身が源泉徴収義務者になるか確認する
相続人が事業を引き継いだ後に、自分の名義で給与等を支払う場合は、相続人自身が源泉徴収義務者になるかどうかを確認します。
被相続人と同じ従業員へ、同じ日に同じ金額を支払う場合であっても、支払者が被相続人から相続人へ変わっている点は無視できません。相続人は、被相続人の源泉徴収義務者としての地位をそのまま引き継ぐのではなく、自分自身の支払内容から源泉徴収義務があるかを新たに判定します。
給与や青色事業専従者給与を支払う場合
相続人が従業員、家族従業者、青色事業専従者等へ給与等を支払う場合は、原則として源泉徴収義務者になる方向で確認します。
ただし、常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払う個人など、源泉徴収義務者にならない例外もあります。自分の支払形態がこの例外に当たるかどうか判断できない場合は、所轄税務署または国税庁の情報で確認してください。
相続人が新たに青色事業専従者給与を支払う場合も、青色事業専従者給与に関する届出を行っただけでは、源泉所得税に関する手続きが完了したことにはなりません。給与支払事務所等の届出、源泉徴収、納付は、それぞれ別に確認する必要があります。
報酬・料金等を支払う場合
相続人が税理士、弁護士、司法書士、原稿料・講演料等、源泉徴収の対象となる一定の報酬・料金を支払う場合は、支払内容ごとに源泉徴収の対象になるかを確認します。
ただし、個人が給与等の支払者でない場合など、一定の報酬・料金について源泉徴収義務が生じない例外があります。そのため、「個人事業主が税理士へ報酬を支払えば必ず源泉徴収する」と一律に扱うことはできません。
自分の支払う報酬・料金等が源泉徴収の対象になるかどうかは、報酬・料金の種類と、自分自身が給与等の支払者に当たるかどうかの両方から確認してください。
相続前から自分が源泉徴収義務者だった場合
相続人が相続前から別の事業を営み、既に源泉徴収義務者だった場合は、「相続をきっかけに初めて源泉徴収義務者になる」とは限りません。
この場合は、次を確認します。
- 相続人自身が既に開設している給与支払事務所等の状況
- 既存の納期の特例の承認状況
- 承継した事業の給与支払事務を、既存の給与支払事務所等でどのように扱うか
- 新しく発生する支払を、既存の源泉徴収関係の中でどのように処理するか
- 被相続人側の未処理分と、相続人自身の既存の処理を混同していないか
具体的な整理番号の扱いや、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収高計算書(納付書)上の記載方法については、記事だけで確定できないため、必要に応じて所轄税務署へ確認してください。
納期の特例を確認する
被相続人が源泉所得税の納期の特例の承認を受けていたとしても、相続人がその承認を当然にそのまま利用できるとは限りません。
相続人側では、次を確認します。
- 常時10人未満の要件を満たしているか
- 相続人自身の納期の特例の承認状況
- 新たな申請が必要かどうか
- 特例がいつから適用されるか
また、確認する際には次の点も踏まえてください。
- 被相続人が納期の特例の承認を受けていたか
- 死亡前のどの支払分までが被相続人側の扱いになるか
- 被相続人側に未納の特例対象税額が残っていないか
- 相続人自身が既に納期の特例の承認を受けているか
- 相続人側で新たな申請が必要かどうか
- 相続人側の適用開始日はいつになるか
- 今回発生する税額が特例の対象となる所得かどうか
納期の特例は、源泉所得税のすべてに使えるものではなく、対象となる税額が限定されています。「納期の特例を使えばすべての報酬の源泉所得税を半年分まとめられる」と扱うことはできません。
新たに納期の特例を利用したい場合は、相続人自身の要件確認・承認・申請の手続きが必要かどうかを、あわせて確認してください。
給与支払事務所等の届出との関係
相続人が給与等を支払う場合は、源泉徴収義務の確認だけでなく、給与支払事務所等の開設届出が必要かどうかを別途確認する必要があります。
源泉徴収義務者になったことと、給与支払事務所等の届出の要否は、無条件に同じ結論になるものとして一体化することはできません。また、給与支払事務所等の届出を提出しただけで、源泉所得税の徴収・納付まで完了するわけではありません。青色事業専従者給与の届出を提出した場合も同様です。
給与支払事務所等の届出そのものについては、「相続で個人事業を引き継いだときの給与支払事務所等の届出を確認する」であわせて確認してください。
期限・いつまでに
相続人が新たに源泉徴収した税額は、原則として、源泉徴収の対象となる所得を実際に支払った月の翌月10日までに納付します。納期の特例の承認を受けており、対象税額に該当する場合は、特例の納期限を確認してください。
被相続人が死亡前に源泉徴収した税額については、死亡を理由に一律で新しい期限に置き換わるわけではありません。源泉所得税の本来の納期限、納期の特例の有無、死亡時点の納付状況、相続による納付義務の承継の有無を、それぞれ分けて確認する必要があります。
準確定申告の期限(死亡を知った日の翌日から4か月以内)は、源泉所得税の納期限とは別のものです。準確定申告の4か月期限を、源泉所得税の一般的な納期限として扱うことはできません。
法定納期限が土曜日・日曜日・祝日等に当たる場合の扱いについては、国税庁の公式情報で確認してください。
最初にやること
相続で個人事業を引き継いだら、まず次の順番で確認します。
- 被相続人が死亡前に給与等または源泉徴収対象の報酬・料金等を支払っていたか確認する。
- 被相続人側に未納・未処理の源泉所得税がないか確認する。
- 自分(相続人)が事業承継後に給与等または源泉徴収対象の報酬・料金等を支払うか確認する。
- 自分が相続前から別の事業で源泉徴収義務者だったか確認する。
- 被相続人が納期の特例を利用していたか、自分が納期の特例を利用する必要があるか確認する。
- 上記の結果に応じて、必要な手続き(承継国税の納付、源泉徴収・納付、給与支払事務所等の届出、納期の特例の申請等)へ進む。
被相続人側の確認と相続人側の確認は、別々の項目として進めてください。
状況別
被相続人も相続人も給与・源泉徴収対象報酬等を支払わない
被相続人側に未処理の源泉所得税がないことを確認できれば、このページで行う中心的な確認は終了できます。
被相続人は給与を支払っていたが、相続人は給与を支払わない
被相続人側の最後の給与支払、源泉徴収、納付、年末調整・源泉徴収票等の残処理を確認します。相続人側を機械的に新しい給与の源泉徴収義務者として扱うことはありません。
被相続人の従業員へ相続人が引き続き給与を支払う
被相続人側の最終処理と、相続人側の新しい給与支払・源泉徴収を分けて確認します。あわせて、給与支払事務所等の開設が必要かどうかも確認します。
相続人が新たに青色事業専従者給与を支払う
青色事業専従者給与の届出だけで源泉所得税に関する手続きが完了するとは扱いません。給与支払事務所等の届出、源泉徴収、納付を、それぞれ別に確認します。
被相続人は納期の特例を利用していた
死亡前までの対象税額と納期限を確認します。相続人側で特例が当然に継続するとは扱いません。
相続人が納期の特例を利用したい
相続人自身について、要件、承認状況、申請の要否、適用開始時期を確認します。
相続人は給与を支払わないが、税理士等へ報酬を支払う
相続人が個人で給与等の支払者でない場合の例外を含め、報酬の種類と自分自身の支払者としての状態から、源泉徴収義務があるかを確認します。
相続人は相続前から別事業で源泉徴収義務者だった
既存の源泉徴収関係と、承継した事業で新たに発生する支払との関係を確認します。被相続人側の未処理分は、これとは別に扱います。
被相続人側に未納の源泉所得税がある
「死亡したので納付は不要になった」とは扱いません。相続による国税の納付義務の承継として、所轄税務署へ確認したうえで、必要な納付へ進みます。
誰の支払・どの期間の税額か分からない
死亡日、支払日、支払者名義、対象となる所得、源泉徴収を行った日、納付状況を整理し、被相続人側と相続人側に分けたうえで、税務署へ確認します。
手続きの流れ
- 事前確認:被相続人側の支払・源泉徴収・納付状況と、相続人側で今後発生する支払を、それぞれ整理します。
- 必要なものの準備:被相続人の最後の支払や源泉徴収に関する記録、相続人自身の事業承継後の支払予定に関する情報を準備します。
- 被相続人側の対応:未納・未処理があれば、承継国税として所轄税務署へ確認し、必要な納付を行います。
- 相続人側の判定:給与等や報酬・料金等の支払内容から、自分自身が源泉徴収義務者になるかを判定します。
- 必要な届出・申請:源泉徴収義務者になる場合は、給与支払事務所等の届出の要否、納期の特例の要否を確認し、必要な届出・申請を行います。
- 源泉徴収・納付の実施:実際に給与等・報酬等を支払う際に源泉徴収を行い、原則として翌月10日までに納付します。納期の特例を受けている場合は、その納期限に従います。
- 納付後・届出後の確認:納付が完了したこと、届出が受理されたことを確認し、必要な記録を保管します。年末調整や源泉徴収票等の後続処理が必要な場合は、その要否も確認します。
読者が該当しない手順は省略してかまいませんが、被相続人側の確認を省略してよいのは、未処理分がないことを確認できた場合に限ります。
よくある間違い
- 被相続人と相続人を同じ源泉徴収義務者として扱う。
- 事業を引き継げば源泉所得税に関する手続きも自動的に名義変更されると考える。
- 被相続人が死亡したので、未納の源泉所得税も消えると考える。
- 準確定申告の4か月期限を、源泉所得税の納期限だと思い込む。
- 被相続人の納期の特例が相続人へ自動的に承継されると考える。
- 相続人が給与を支払うにもかかわらず、源泉徴収の要否を確認しない。
- 青色事業専従者給与であれば源泉徴収は関係ないと考える。
- 青色事業専従者給与の届出だけで、源泉徴収に関する手続きも完了すると考える。
- 給与支払事務所等の届出だけで、源泉所得税の納付も完了すると考える。
- 相続人が給与を支払わないという理由だけで、どの報酬・料金についても源泉徴収が不要だと決めつける。
- 逆に、個人事業主が専門家へ報酬を支払えば必ず源泉徴収が必要だと決めつける。
- 納期の特例がすべての源泉所得税に使えると考える。
- 被相続人側の未納税額と、相続人側の新しい税額を一つの期間としてまとめてしまう。
- 死亡日だけを見て、実際の支払日・支払者を確認しない。
- 相続前から相続人自身が源泉徴収義務者だったケースを、相続による新規開始と決めつける。
- 被相続人の整理番号や納付情報を、相続人がそのまま使えると考える。
- 相続人が複数いる場合の承継税額を、記事だけで一律に割り振って判断する。
- 未納や期限経過が判明しても、次の納付や税務署への確認へ進まずに放置する。
チェックリスト
判断できない場合
次の事項は、このページだけで結論を確定できません。必要な情報を整理したうえで、所轄税務署へ確認してください。
- 被相続人の死亡日
- 事業承継日
- 被相続人が最後に給与を支払った日
- 被相続人が最後に報酬・料金等を支払った日
- 各支払の支払者名義
- 各支払の支給・支払確定時期
- 被相続人が源泉徴収した税額
- 被相続人側の納付済み・未納
- 被相続人側の納期の特例の承認状況
- 相続人が最初に給与を支払う日
- 相続人が最初に報酬・料金等を支払う日
- 相続人自身が相続前から源泉徴収義務者だったか
- 相続人自身の給与支払事務所等の状況
- 相続人自身の納期の特例の承認状況
- 被相続人の整理番号等を相続人側でどう扱うか
- 相続人が複数いる場合、被相続人側の承継国税を誰がどの範囲で処理するか
- 死亡前後の未払給与・未払報酬について、いつ・誰の支払として源泉徴収を扱うか
- 期限を過ぎている場合、現在どの納付・届出・確認を先に行うべきか
相談先
- 所轄税務署
- 国税局電話相談センター
個別の承継国税額、相続人が複数いる場合の負担範囲、被相続人の整理番号・納期の特例の扱い、死亡前後の未払給与等の具体的な処理については、必要な事項を整理したうえで所轄税務署へ確認してください。
公式リンク
- 国税庁 No.2502「源泉徴収義務者とは」
- 国税庁 No.2110「事業主がしなければならない源泉徴収」
- 国税庁 No.2793「報酬・料金等の源泉徴収義務者」
- 国税庁 No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
- 国税庁 A2-8「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
- 国税庁「第5条関係 相続による国税の納付義務の承継」
- 国税庁「納付書の記載のしかた(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)」
- 国税庁「源泉所得税関係」
- e-Tax「源泉所得税(徴収高計算書)」
- 必要に応じ、該当する報酬・料金等に関する国税庁タックスアンサー
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| 読者の状態 | 案内 |
|---|---|
| 被相続人側に未処理がなく、相続人も源泉徴収義務者にならない | このページでの確認は終了です |
| 被相続人側に未納・未処理がある | 承継国税・納付の確認へ進んでください |
| 相続人が給与等を支払う | 給与支払事務所等の届出および源泉徴収の確認へ進んでください |
| 相続人が源泉徴収対象の報酬等を支払う | 報酬の種類ごとの源泉徴収の確認へ進んでください |
| 相続人が源泉所得税を納付する | 「源泉所得税を納付する」で確認してください |
| 相続人が納期の特例を利用したい | 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出する」で確認してください |