相続で個人事業を引き継いだときの棚卸資産を確認する

概要

個人事業を営んでいた方が亡くなり、その事業を相続人が引き継ぐ場合、商品・製品・原材料・半製品・仕掛品・未使用消耗品等の棚卸資産をどのように扱うかで迷う方が多くいます。相続した在庫を相続税評価額や相続時の時価でそのまま帳簿に入れてよいのか、それとも別の考え方があるのか、という点は特に誤解が生じやすい部分です。

所得税の計算では、被相続人が亡くなった日が棚卸資産の期末となり、その時点で被相続人がよるべき評価方法によって評価した金額が、相続人の所得税上の取得価額へつながるという仕組みがあります。これは相続税の財産評価とは異なる制度です。

この記事は、相続で個人事業を引き継いだ方を対象に、被相続人の死亡時の棚卸資産をどう確認し、その金額がどのように相続人側の取得価額へ接続するかを整理し、その後の通常の棚卸し・売上原価計算へ進める状態まで案内します。通常の実地棚卸しの手順や、売上原価計算の詳細な計算方法そのものは、この記事の主な範囲ではありません。

このページで分かること

  • 相続で引き継ぐ棚卸資産の範囲
  • 被相続人の死亡日が棚卸資産の期末になること
  • 被相続人の死亡時における棚卸資産の数量・評価額の確認方法
  • 死亡時の評価額が相続人の所得税上の取得価額へつながる仕組み
  • 相続税評価額と所得税上の取得価額の違い
  • 相続人自身が使う棚卸資産の評価方法の確認方法
  • 相続後に販売した分と年末まで残った分の分け方
  • 通常の棚卸し・売上原価計算へ進む前に確認しておくこと

対象読者

この記事は、主に次のような方を対象としています。

  • 個人事業者が亡くなり、商品・製品・原材料等を含む事業を引き継いだ相続人
  • 被相続人の準確定申告と、自分が引き継いだ後の確定申告の境界を整理したい方
  • 相続した在庫を「相続時の時価」「相続税評価額」「0円」のいずれで帳簿に入れるのか迷っている方
  • 被相続人の棚卸表・青色申告決算書・収支内訳書等を確認できる方
  • 相続後も同じ商品等を販売・製造に使用する方

上記に当てはまるかどうかは、ご自身の状況と照らし合わせてご確認ください。

更新日

更新日:2026年10月2日

最初にやること

被相続人が死亡した日現在で、商品・製品・原材料・半製品・仕掛品・未使用消耗品等の棚卸資産が残っていたかどうかを確認します。

残っていた場合は、その数量と、被相続人がよるべきとされていた評価方法を確認します。

残っていなかった場合や、自分がその棚卸資産を相続する立場にない場合は、この記事で確認すべき事項は基本的にありません。

相続した棚卸資産で最初に確認すること

被相続人の事業を相続で引き継いだ場合、最初に次の資料を確認します。

  1. 被相続人の直近の棚卸表
  2. 被相続人の青色申告決算書または収支内訳書
  3. 商品台帳・在庫表・仕入帳・製造記録等
  4. 死亡日
  5. 死亡日現在の在庫数量を確認できる資料
  6. 被相続人の棚卸資産評価方法の届出・変更承認の有無
  7. 相続人自身の既存事業と棚卸資産評価方法の届出状況
  8. 遺産分割・遺言等から、誰がどの在庫を取得するか確認できる資料
  9. 相続税申告用の財産評価資料(所得税上の取得価額と区別するため)
  10. 相続後の売上・仕入・使用・廃棄等の記録

これらの資料が手元にそろっていない場合は、被相続人の事業に関わっていた税理士や、被相続人が確定申告を行っていた税務署へ確認する方法があります。

死亡した日が被相続人の棚卸しの基準日になる

通常、個人事業者の棚卸しは12月31日現在で行います。しかし、被相続人が年の中途で死亡した場合、所得税法第47条上の棚卸資産の基準時は12月31日ではなく、死亡した日になります。

これは、被相続人の死亡年の所得税(準確定申告)を計算するうえで、死亡日までの事業所得・売上原価等を確定させる必要があるためです。

死亡年の12月31日まで待って棚卸しを行うという扱いにはならない点に注意します。

死亡時に残っていた棚卸資産を確認する

被相続人の死亡日現在で残っていた棚卸資産の種類と数量を確認します。対象となるのは、商品、製品、原材料、半製品、仕掛品、未使用の消耗品等です。

確認の際は、次の点を確認します。

  • 死亡直前の通常の棚卸表があっても、死亡日までの売買・使用・返品等の動きが反映されているか
  • 死亡日前後に、未着品、委託販売中の商品、預け在庫・預り在庫等が含まれていないか
  • 死亡日前後に返品・値引き・破損・陳腐化等がなかったか

これらの事情がある場合は、死亡日時点で実際にどの資産が被相続人の棚卸資産に含まれるかを、通常の在庫表よりも慎重に確認する必要があります。

被相続人が使う評価方法を確認する

被相続人の死亡時棚卸高を計算するためには、被相続人が死亡時によるべきとされていた棚卸資産の評価方法を確認する必要があります。

確認する資料には、次のようなものがあります。

  • 被相続人が提出していた棚卸資産の評価方法の届出書の控え
  • 被相続人の過去の青色申告決算書・収支内訳書に記載された評価方法
  • 評価方法の変更承認を受けていた記録

被相続人が評価方法を選定・届出していなかった場合は、法定評価方法(最終仕入原価法による原価法)によることになります。

被相続人が低価法等の特定の評価方法を使用していた場合、その方法によらずに独自に単価を作り直すことはしません。

届出控えが見当たらない場合は、直近の決算書・棚卸表と、税務署への確認を組み合わせて確認します。

死亡時の棚卸高を計算する

死亡日現在の在庫数量と、被相続人がよるべき評価方法を確認できたら、その評価方法にもとづいて死亡時点の棚卸資産の評価額を計算します。

この評価額が、被相続人の死亡年分の準確定申告における期末棚卸高として、売上原価等の計算に反映されます。

死亡時の「数量」の確認と「評価額」の計算は、別の作業として順番に確認します。

死亡時の棚卸高が相続人の取得価額につながる

被相続人の死亡時棚卸高として確定した評価額は、そのまま相続人側の所得税上の取得価額へつながります。

所得税法施行令第103条2項1号は、相続・遺贈・贈与によって取得した棚卸資産の所得税上の取得価額を、原則として「被相続人の死亡の時において、被相続人がその資産につきよるべきものとされていた評価方法により評価した金額」と定めています。

つまり、次のようなつながりになります。

被相続人の死亡日 ↓ 死亡時の在庫数量を確認 ↓ 被相続人がよるべき評価方法で死亡時評価 ↓ 被相続人側:死亡年の期末棚卸高 = 相続人側:相続した棚卸資産の所得税上の取得価額 ↓ 相続後の販売・使用・年末残存を記録 ↓ 相続人自身の棚卸し・売上原価計算へ

通常、購入した棚卸資産の取得価額は「購入代価+付随費用」、それ以外の方法で取得した棚卸資産は「取得時の通常要する価額」等によって計算しますが、相続・遺贈・贈与で取得した棚卸資産にはこの特則が適用され、通常の取得価額の計算方法をそのまま当てはめるものではありません。

同じ棚卸資産について、被相続人側で死亡時棚卸高から除外したうえで、相続人側でも取得価額を計上しないという状態にはしません。反対に、被相続人側で死亡時棚卸高を計上したことを理由に、相続人側の取得価額を0円として扱うこともしません。

相続税評価額を取得価額にしない

相続では、相続税の申告のために棚卸資産(たな卸商品等)を評価することがあります。この相続税評価額と、ここまで説明してきた所得税上の取得価額は、別の制度にもとづく別の金額です。

項目 所得税 相続税
主な目的 事業所得・売上原価等の計算 相続税の課税価格の計算
相続時棚卸資産の中心根拠 所得税法第47条、所得税法施行令第103条2項1号 財産評価基本通達132・133等
商品・製品等の評価 被相続人が死亡時によるべき所得税上の評価方法で評価 販売価額等を基礎とする評価など
原材料等の評価 所得税上の評価方法による死亡時評価 課税時期の仕入価額等を基礎とする評価など
相続人の所得税上の取得価額への転記 所得税側の死亡時評価額を確認する 相続税評価額を自動的に転記しない

財産評価基本通達133には、個々の価額を算定しがたい場合に所得税法施行令第99条等のうち事業者が所得計算上選定している方法を用いることができる例外がありますが、この例外があることを理由に「相続税評価額と所得税上の取得価額は常に同額になる」と一般化することはできません。

次のような考え方は、この記事の内容とは異なりますので注意してください。

  • 相続した在庫は相続税評価額で帳簿に入れる
  • 相続した在庫は相続時の時価で取得したことになる
  • 相続した在庫はタダでもらったものだから取得価額は0円である

相続税申告用の評価額はすでに計算していても、それとは別に、所得税法施行令第103条2項1号にもとづく所得税上の取得価額を確認する必要があります。

相続人自身が使う評価方法を確認する

被相続人の死亡時評価額を相続人の取得価額として受け取ることと、相続人自身がその後の年末棚卸しでどの評価方法を使うかは、別の確認事項です。被相続人の評価方法が、相続人へそのまま自動的に引き継がれるとは限りません。

相続人が今回初めて事業を始めた場合

相続をきっかけに事業を初めて始めた場合は、棚卸資産の評価方法の選定・届出の対象となるかどうかを確認します。

届出の期限は、その事業を開始した日の属する年分の所得税の確定申告期限までです。

届出をしない場合は、法定評価方法である最終仕入原価法による原価法によることになります。

相続前から自分の事業がある場合

相続前から同種または別種の事業を営んでいた場合は、一律に「新規事業開始」として扱うのではなく、次を確認します。

  • 自分がすでに選定・届出している評価方法
  • 承継した事業が自分の既存事業と別の種類の事業に当たるかどうか
  • 資産区分がどうなるか

これらの関係が自分では判断できない場合は、税務署または税理士へ確認します。

相続後に売れた棚卸資産を確認する

相続で取得した棚卸資産のうち、相続後に販売したものについては、施行令103条2項1号にもとづいて確認した取得価額をもとに、相続人自身の売上原価計算へ接続します。

具体的な売上原価の計算方法は、「事業所得の売上原価を計算する」を確認します。

年末まで残った棚卸資産を確認する

相続した棚卸資産のうち、年末まで販売・使用されずに残ったものは、相続人自身に適用される棚卸資産の評価方法にもとづいて、通常の年末棚卸しへ進みます。

具体的な棚卸しの手順は、「事業所得の棚卸しをする」を確認します。

相続後に新しく仕入れた商品等と分けて確認する

相続で引き継いだ棚卸資産と、相続後に相続人が新たに仕入れた商品等は、別のものとして記録上追える状態にします。

相続在庫と相続後の仕入れを混同すると、取得価額の確認や、年末棚卸しの計算が正確に行えなくなります。

相続後の仕入れの具体的な記帳方法は、「事業所得の仕入れを記帳する」を確認します。

被相続人と相続人の売上原価を混ぜない

被相続人の死亡年分の売上原価等の計算と、相続人が相続後に行う売上原価等の計算は、別の人の別の期間の計算として扱います。

死亡日後の売上を被相続人側の売上として扱ったり、死亡日後の仕入れを被相続人側の仕入れとして扱ったりはしません。

また、被相続人側の死亡時棚卸高と、相続人側の取得価額は、境界でつながる一つの金額であり、同じ在庫の原価を被相続人側・相続人側の双方で二重に必要経費とすることはありません。

状況別

自分の状況に近いものを確認します。

死亡時に商品・材料等が残っていない場合

死亡時棚卸高は0となることがあります。この場合、相続人側へ引き継ぐ棚卸資産もないため、この記事で確認すべき棚卸資産引継ぎの確認は終了します。

死亡時に在庫があり、相続人がそのまま事業を承継する場合

死亡時の数量、被相続人の評価方法、死亡時評価額を確認し、相続人の取得価額へ接続します。

相続後すぐに相続在庫を販売した場合

取得価額を確認したうえで、相続人側の売上原価計算へ進みます。

相続在庫が相続人の年末まで残った場合

相続人自身の評価方法を確認したうえで、通常の年末棚卸しへ進みます。

相続人が相続後に新しい仕入れも行った場合

相続在庫と相続後の仕入れの記録を整理したうえで、相続人自身の評価方法にもとづいて年末評価・売上原価計算へ進みます。

相続人が相続前から同種の事業をしていた場合

自分の既存の評価方法との関係を確認します。相続を理由に、被相続人の評価方法へ機械的に変更することはしません。

相続税申告用の棚卸資産評価額が既にある場合

その金額を所得税へそのまま転記せず、所得税法施行令第103条2項1号にもとづく所得税上の取得価額を別に確認します。

遺産分割が終わっていない場合・複数人が在庫を引き継ぐ可能性がある場合

誰が何を取得するかを先に確認します。自分の単独取得であると推測することはしません。

限定承認に該当する可能性がある場合

この記事で説明している通常相続の整理をそのまま適用せず、税務署または税理士へ確認します。

死亡日現在の数量や評価方法が分からない場合

在庫表、仕入帳、棚卸表、決算書、届出控え等を確認します。それでも分からない場合は、次の「判断できない場合」を参考に、確認すべき事項を整理したうえで税務署または税理士へ確認します。

判断できない場合

自分だけで判断できない場合、税務署や税理士へ「相続した在庫はどうすればよいか」とだけ尋ねるのではなく、次の情報を整理してから確認すると、的確な回答を得やすくなります。

  1. 被相続人の死亡日
  2. 事業の種類
  3. 棚卸資産の種類
  4. 死亡日現在の数量
  5. 被相続人の直近棚卸表
  6. 被相続人の評価方法
  7. 評価方法の届出・変更承認の有無
  8. 死亡時評価額の計算状況
  9. 誰が棚卸資産を相続するか
  10. 遺産分割の状況
  11. 限定承認の有無
  12. 相続人が相続前から事業をしていたか
  13. 相続人自身の評価方法
  14. 相続後の売上・仕入・使用・廃棄等
  15. 相続税評価額と所得税上の金額をどの資料で区別しているか

注意点

  1. 死亡時の「数量」と「評価額」は、分けて確認します。
  2. 死亡直前の通常棚卸表があっても、死亡日までの売買・使用等が反映されているかを確認します。
  3. 被相続人の評価方法の届出控えがない場合は、直近決算書・棚卸表・税務署への確認を組み合わせます。
  4. 低価法等を使用していた場合、独自に単価を作り直しません。
  5. 相続人側の評価方法の確認は、被相続人側の死亡時評価額を決める話とは区別します。
  6. 相続税の評価資料は、別税目の資料として区別して保管します。
  7. 未着品、委託販売、預け在庫、預り在庫等がある場合は、所有関係を確認します。
  8. 返品・値引き・破損・陳腐化等が死亡日前後にある場合は、基準日を確認します。
  9. 製品・仕掛品は、単純な仕入単価だけで判断しません。
  10. 農産物等には個別の取扱いがあるため、一般の商品と一律に扱いません。
  11. 相続後の家事消費・贈与・廃棄等は、通常の棚卸し・売上原価に関する記事の該当ルールを確認します。
  12. 被相続人の準確定申告の期限と、相続人自身の確定申告期限は混同しません。
  13. 相続人が複数いる場合、在庫の帰属を推測しません。
  14. 帳簿上の橋渡しは、税務上の取得価額と実物数量の両方が追えるようにします。
  15. 相続税評価額と所得税上の取得価額が偶然同じ金額になっても、それぞれの根拠は別に記録します。
  16. 税務署や税理士への確認に委ねた事項を、「通常」「一般的には」等で独自に一般化しません。

よくある間違い

  1. 死亡年も12月31日に棚卸しすればよいと思ってしまう
  2. 死亡時の在庫数量を確認しない
  3. 被相続人の評価方法を確認せずに単価を決めてしまう
  4. 相続税評価額をそのまま相続人の取得価額にしてしまう
  5. 相続時の時価をそのまま取得価額にしてしまう
  6. 無償で取得したからと取得価額を0円にしてしまう
  7. 被相続人側の期末棚卸高だけを計上し、相続人側の取得価額を落としてしまう
  8. 相続人側の取得価額を計上したために、被相続人側の死亡時棚卸高を落としてしまう
  9. 被相続人の評価方法が相続人へ自動的に承継されると思ってしまう
  10. 相続人が必ず新しい評価方法を届け出るものだと思ってしまう
  11. 相続人が届出をしなければ棚卸資産を評価しなくてよいと思ってしまう
  12. 相続前から自分の事業があるのに、既存の評価方法を確認しない
  13. 相続後の売上を被相続人側へ入れてしまう
  14. 相続後の仕入れを被相続人側へ入れてしまう
  15. 相続在庫と相続後の仕入れを区別できない状態にしてしまう
  16. 遺産分割が未了なのに、自分の在庫として確定してしまう
  17. 限定承認を通常の相続と同じに扱ってしまう
  18. 通常の棚卸し・売上原価に関する記事へ接続せず、この記事だけで年末決算を完了したと思ってしまう

チェックリスト

対象・帰属

死亡時

所得税上の引継ぎ

相続人側

次工程

相談先

税務署

次のような事項の確認に向いています。

  • 被相続人が死亡時によるべき棚卸資産評価方法
  • 相続人自身の評価方法の届出要否
  • 法定評価方法
  • 準確定申告と相続人側の所得税計算の境界
  • 一般的な制度・手続きの確認

税理士

次のような事項の確認に向いています。

  • 死亡時在庫の復元計算が必要な場合
  • 製品・仕掛品等の原価計算が複雑な場合
  • 複数の評価方法・事業区分がある場合
  • 遺産分割未了・複数承継者がいる場合
  • 限定承認に該当する場合
  • 相続税評価と所得税計算を同時に整理する必要がある場合

公式リンク

次の公式情報源で、制度の詳細や最新情報を確認できます。

あなたの場合はこちら

  • 相続した棚卸資産がない方は、この記事で確認すべき事項は終了です。
  • 相続在庫を販売した方は、「事業所得の売上原価を計算する」を確認します。
  • 年末まで在庫が残った方は、「事業所得の棚卸しをする」を確認します。
  • 相続後の仕入れを記帳する方は、「事業所得の仕入れを記帳する」を確認します。
  • 準確定申告全体を確認したい方は、「準確定申告をする」を確認します。
  • 限定承認・遺産分割未了等に該当する方は、税務署または税理士へ確認します。