相続で個人事業を引き継いだときの売掛金・買掛金を確認する
概要
個人事業を営んでいた方が亡くなり、事業を引き継いだ相続人は、死亡日現在に残っている売掛金・買掛金をどう扱うか確認する必要があります。
売掛金は、入金の有無ではなく、売上が死亡前に成立していたかどうかで所得税上の扱いが変わります。買掛金等も、支払の有無ではなく、債務が死亡前に確定していたかどうかで必要経費への算入が決まります。
さらに、売掛金は相続財産として、買掛金・未払金等は相続債務として、所得税とは別に確認する必要があります。
このページでは、死亡日現在の売掛金・買掛金を相手先別に確認し、被相続人側の所得計算と相続人側の帳簿・回収・支払を二重計上なく接続するための確認事項を案内します。通常時の得意先別・仕入先別の残高照合方法そのものは扱いません。
このページで分かること
- 死亡日現在の売掛金・買掛金を相手先別に確認する方法
- 売掛金の元となった売上を、いつ収入として計上すべきか確認する方法
- 買掛金の元となった仕入・費用を、いつ必要経費へ算入すべきか確認する方法
- 相続後に回収・支払した金額を、被相続人側の売上・経費として二重計上しないための考え方
- 売掛金を相続財産として、買掛金・未払金等を相続債務として確認する必要があること
- 所得税上の計上と相続税上の評価・債務控除を混同しないための区別
- 相続後に新しく発生した売掛金・買掛金と、死亡時に引き継いだ残高を分けて管理する考え方
- 被相続人に貸倒引当金がある場合に確認すべき死亡時の特則
- 判断できない場合の確認先
対象読者
- 個人事業者が亡くなり、取引先・得意先・仕入先を含む事業を引き継いだ相続人
- 被相続人の帳簿に売掛金・買掛金が残っている人
- 死亡後に入金された売掛金を自分の売上にするのか迷っている人
- 死亡後に支払った買掛金を自分の仕入・経費にするのか迷っている人
- 準確定申告と相続人自身の確定申告の境界を整理したい人
- 相続税申告で売掛金・買掛金をどう区別して確認するか知りたい人
- 被相続人が貸倒引当金を設定していた、または死亡年に設定する可能性がある人
更新日
更新日:2026年10月2日
最初にやること
- 被相続人の死亡日を確認する。
- 総勘定元帳、売掛帳・買掛帳を確認する。
- 得意先別・仕入先別の残高一覧を確認する。
- 死亡日前後の入金・支払記録を確認する。
- 死亡日前後に返品・値引き・取消・相殺等がないか確認する。
- 直近の青色申告決算書または収支内訳書を確認する。
- 被相続人が貸倒引当金を設定していたか確認する。
死亡日現在の売掛金・買掛金を確認する
死亡日現在の売掛金・買掛金を確認する基準日は、被相続人の死亡日です。
まず、死亡日現在で誰にいくら未回収の売掛金があるかを、得意先別に確認します。
次に、死亡日現在で誰にいくら未払いの買掛金があるかを、仕入先別に確認します。
死亡日直前の帳簿残高だけを確認するのではなく、死亡日までの取引が残高へ反映されているかを確認します。
死亡日前後の入金・支払は、同じ基準日で切り分けて整理します。
売掛金の元になった売上の計上時期を確認する
売掛金は、入金日だけで売上の帰属を決めません。
死亡前に商品の引渡しや役務の提供等が完了し、収入すべき権利が確定している売上は、死亡日現在で未回収であっても、被相続人側の収入となり得ます。
具体的にいつ収入とすべきかは、商品販売、請負、役務提供など、取引の内容や性質、契約、慣習等によって異なります。
契約が死亡前であっても、商品の引渡しや役務の提供、検収等が死亡後になる取引は、契約日だけで死亡前の売上と判断しません。取引の種類ごとに、収入すべき時期が死亡前か死亡後かを確認します。
死亡日現在の売掛金残高は、被相続人側ですでに売上として計上すべきで、かつ未回収である部分を中心に確認します。
買掛金の元になった仕入・費用の計上時期を確認する
買掛金等は、支払日だけで必要経費の帰属を決めません。
死亡前に債務が確定し、必要経費算入の要件を満たしている仕入や費用は、死亡日現在で未払いであっても、被相続人側の必要経費となり得ます。
死亡日現在の買掛金・未払金等については、それぞれが何の取引に対応する債務かを確認します。
買掛金以外にも、未払費用・未払金等が死亡時に残っている場合があります。勘定科目の名前だけで判断せず、元の取引内容、債務が確定した時期、相続における負担者を確認します。
死亡後に回収した売掛金をもう一度売上にしない
被相続人側ですでに売上として計上すべき売掛金を相続人が死亡後に回収した場合、その回収は、同じ取引の売上として相続人側でもう一度計上する対象ではありません。
相続によって取得した売掛金を回収した金額と、相続後に相続人自身が新たに行った販売や役務提供から生じた売掛金の回収は、区別して管理します。
相続した売掛金について、一部だけを回収した場合、回収額と残額を確認し、元の債権残高との対応を追える状態にします。
相続した売掛金に返品・値引き・取消・相殺等が生じた場合は、元の取引との対応を確認します。
死亡後に支払った買掛金をもう一度仕入・経費にしない
被相続人側ですでに必要経費等へ反映すべき買掛金を相続人が死亡後に支払った場合、その支払は、同じ取引の仕入や経費として相続人側でもう一度必要経費に計上する対象ではありません。
相続後に相続人自身が新たに仕入れた商品や受けた役務等から生じる買掛金とは区別します。
支払を行う際には、死亡時から引き継いだ債務の減少なのか、相続後に新しく発生した債務の支払なのかを追える状態にします。
売掛金は相続財産としても確認する
売掛金は、所得税上の売上計上とは別に、相続開始時に存在する金銭債権として相続財産になり得ます。
相続税では、売掛金等の金銭債権について、所得税の売上計上とは異なる評価の考え方で確認します。相続税申告書の事業用財産にも「売掛金」の区分があります。
相続税評価額を、そのまま相続人の新しい事業の売上として扱う対象ではありません。
買掛金・未払金は相続債務としても確認する
買掛金・未払金等は、死亡時に現に存在し、確実と認められる債務であれば、相続税の債務控除の対象になり得ます。
所得税の必要経費算入と相続税の債務控除は、別の判定です。所得税で必要経費になったことが、そのまま相続税の債務控除を約束するものではありません。
同様に、相続税で債務控除の対象とした金額を、相続人の所得税の必要経費として扱う対象でもありません。
所得税と相続税の処理を混ぜない
売掛金・買掛金は、所得税上の確認と相続税上の確認の両方が必要になる場合があります。
売掛金については、所得税では元の売上をいつ収入へ計上するかを確認し、相続税では死亡時に存在する金銭債権としての評価を確認します。
買掛金等については、所得税では元の仕入・費用をいつ必要経費等へ反映するかを確認し、相続税では死亡時に現に存在し確実と認められる債務かどうかを確認します。
同じ売掛金・買掛金を扱う場合でも、所得税用の帳簿・準確定申告資料と、相続税用の財産・債務評価資料は目的が異なります。金額が同額になる場合であっても、それぞれの根拠を分けて確認します。
相続後に新しく発生した売掛金・買掛金と分ける
死亡日現在に引き継いだ売掛金・買掛金と、相続後に相続人自身が新たに行った取引から生じる売掛金・買掛金は、別のものとして管理します。
相続後も同じ得意先・仕入先と取引を続ける場合は、死亡時に引き継いだ残高と、相続後に新しく発生した残高を区別して管理します。
死亡時に引き継いだ残高は、相手先ごとに追える状態にしておきます。
貸倒引当金がある場合は死亡時の特則を確認する
被相続人が売掛金等について貸倒引当金を設定していた場合、または死亡年に貸倒引当金を設定する場合は、通常の売掛金の引き継ぎ確認だけで終えません。
所得税法第52条は、死亡時に一定の貸金等を基礎として貸倒引当金を必要経費へ算入する仕組みを置いています。事業を相続人が承継しない場合には適用されない部分があるため、事業を承継したかどうかを確認します。
所得税法施行令第147条により、被相続人の死亡年に必要経費算入された貸倒引当金は、条件に応じて、事業を承継した相続人の、被相続人が死亡した日の属する年分の総収入金額へ算入されます。
一括評価分については、相続人自身の青色申告の承認または承認申請の状況を確認します。
貸倒引当金の一般的な計算方法や、通常の貸倒損失・貸倒引当金の考え方は、このページでは扱いません。死亡時の特則が関係するかどうか、事業承継の有無、相続人の青色申告状況を確認するところまでを、このページの範囲とします。具体的な貸倒判定や引当金の計算は、別記事で確認します。
状況別
死亡時に売掛金・買掛金がない場合 このページで確認する引き継ぎ残高の確認は、基本的にここで終了できます。相続後の新規取引は、通常の売掛金・買掛金残高を確認する記事で確認します。
死亡前に売上が成立し、入金だけ死亡後になった場合 被相続人側の売上計上を確認します。相続後の入金を、同じ売上としてもう一度計上しません。
死亡前に仕入・費用の債務が確定し、支払だけ死亡後になった場合 被相続人側の仕入・必要経費への反映を確認します。相続後の支払を、同じ仕入・経費としてもう一度計上しません。
契約は死亡前だが、引渡し・役務提供等が死亡後だった場合 契約日だけで帰属を決めず、取引の種類ごとに収入・費用の計上時期を確認します。
相続後も同じ得意先・仕入先と取引を続ける場合 死亡時に引き継いだ残高と、相続後に新しく発生した残高を区別して管理します。
相続した売掛金の一部だけ回収した場合 回収額と残額を確認し、元の債権残高との対応を維持します。
相続した売掛金が回収困難になった場合 通常の貸倒損失・貸倒引当金を確認する記事へ進みます。長期間未回収であるというだけで、貸倒れとして処理しません。
被相続人が貸倒引当金を設定していた、または死亡年に設定する場合 所得税法第52条・施行令第147条による死亡時の特則と、相続人の青色申告状況を確認します。
相続税申告を行う場合 売掛金は相続財産としての評価、買掛金等は債務控除の可否を、所得税の処理と分けて確認します。
遺産分割未了・複数相続人・限定承認等がある場合 誰が債権を取得し、誰が債務を負担するかを推測せず、税務署・税理士、必要に応じて他の専門家へ個別に確認します。
判断できない場合
自分の状況だけでは判断できない場合は、次の内容を整理したうえで、税務署や税理士等へ確認します。
- 被相続人の死亡日
- 相手先名
- 売掛金・買掛金の金額
- 元の取引内容
- 契約日
- 商品引渡日・役務提供日・検収日等
- 請求日
- 入金日・支払日
- 返品・値引き・取消・相殺の有無
- 被相続人の帳簿上の計上状況
- 準確定申告での計上予定
- 誰が売掛金を取得するか
- 誰が買掛金等を負担するか
- 貸倒引当金の有無・種類・金額
- 相続人の青色申告承認・申請状況
- 限定承認・未分割・複数相続人等の特殊事情
注意点
- 売掛金・買掛金は、総額だけでなく相手先別に確認します。
- 死亡日直前の帳簿残高だけを信頼せず、死亡日までの取引が反映されているかを確認します。
- 死亡日前後の入金・支払は、同じ基準日で切り分けて確認します。
- 売掛金は、請求日だけで収入時期を決めません。
- 買掛金等は、支払日だけで必要経費の時期を決めません。
- 商品販売、請負、役務提供等では、収入すべき時期が異なる場合があります。
- 返品・値引き・取消・返金が死亡日前後にある場合は、元の取引との対応を確認します。
- 相殺がある場合、売掛金と買掛金を単純に別々の満額残高として扱えない場合があるため確認します。
- 相続税評価で回収困難性を考慮する場合と、所得税の貸倒判定は混同しません。
- 買掛金以外の未払金・未払費用も、必要に応じて確認します。
- 相続人側の帳簿では、死亡時に引き継いだ残高と、相続後に新しく発生した残高を追える状態にします。
- 被相続人の準確定申告の期限と、相続人自身の確定申告の期限は混同しません。
- 貸倒引当金がある場合は、前年の残高、死亡年の繰入、相続人側の総収入金額算入を一連で確認します。
- 一括評価の貸倒引当金の死亡時特則では、相続人の青色申告承認・申請状況を確認します。
- 消費税の貸倒れに関する税額調整は、所得税の貸倒処理とは別に確認します。
- 遺産分割未了や複数相続人がいる場合は、債権の取得者や債務の負担者を推測しません。
- 限定承認・相続放棄・保証債務等がある場合は、このページの通常の整理をそのまま適用しません。
- 公式確認へ委ねた事項を、「通常」「一般的には」等の言葉で独自に一般化しません。
よくある間違い
- 入金日を売上の日だと考える。
- 支払日を仕入・経費の日だと考える。
- 死亡後に回収した売掛金を相続人の売上としてもう一度計上する。
- 死亡後に支払った買掛金を相続人の仕入・経費としてもう一度計上する。
- 死亡時の売掛金残高を得意先別に確認しない。
- 死亡時の買掛金残高を仕入先別に確認しない。
- 死亡日前後の返品・値引き・取消を確認しない。
- 相続後の新規分と死亡時の引き継ぎ分を混ぜる。
- 売掛金の所得税処理だけを確認し、相続財産としての確認を忘れる。
- 買掛金の所得税処理だけを確認し、相続債務としての確認を忘れる。
- 相続税の売掛金評価額を、所得税の売上額と同一視する。
- 相続税で債務控除した金額を、相続人の必要経費とする。
- 契約日だけで、死亡前・死亡後の所得の帰属を決める。
- 未分割であっても、事業を続けている人がすべての債権・債務を取得したと考える。
- 被相続人の貸倒引当金を確認しない。
- 貸倒引当金の死亡時特則を、通常の翌年繰り戻しと同じものだと考える。
- 回収が遅れているというだけで貸倒処理する。
- 所得税の確認が終われば、消費税や相続税の関連確認も終わったと考える。
チェックリスト
基準日・資料
売掛金
買掛金等
相続税・帰属
貸倒引当金
引継ぎ後
相談先
税務署
次のような内容の確認に向いています。
- 売上の収入すべき時期
- 必要経費の債務確定時期
- 準確定申告と相続人側申告の所得税上の境界
- 貸倒引当金の死亡時特則
- 相続人の青色申告承認・申請との関係
- 相続税上の売掛金評価・債務控除の一般的な制度確認
税理士
次のような場合に向いています。
- 死亡日前後に多数の取引がまたがる場合
- 得意先・仕入先別の残高の復元が必要な場合
- 複数相続人・遺産分割未了の場合
- 貸倒引当金・貸倒損失が絡む場合
- 所得税・消費税・相続税を同時に整理する必要がある場合
- 返品・値引き・相殺・回収困難等が複雑な場合
- 限定承認等の特殊事情がある場合
法的な帰属・債務負担が争点になる場合
遺産分割、債務承継、相続放棄、限定承認等について法的判断が必要な場合は、税務の確認だけで終えず、必要に応じて弁護士・司法書士等、適切な専門家へ確認します。
公式リンク
- 国税庁「収入金額とその計算」
- 国税庁「必要経費の知識」
- 国税庁「事業所得の課税のしくみ」
- 国税庁 所得税基本通達「収入金額」
- 国税庁 所得税基本通達「貸倒損失」
- 国税庁 所得税基本通達「貸倒引当金(個別評価)」
- 国税庁 所得税基本通達「貸倒引当金(一括評価・死亡時特則)」
- e-Gov法令検索「所得税法」
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」
- 国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
- 国税庁「相続税がかかる財産」
- 国税庁「相続財産から控除できる債務」
- 国税庁「財産評価基本通達(貸付金債権等の評価)」
あなたの場合はこちら
通常の売掛金・買掛金残高を確認したい場合 「事業所得の売掛金・買掛金残高を確認する」で、通常時の得意先別・仕入先別の残高照合方法を確認できます。
売上をいつ計上するか詳しく確認したい場合 「事業所得の売上・収入の計上時期を確認する」または対応する記事で、収入すべき時期の詳しい考え方を確認できます。
売掛金が回収できない場合 「事業所得の貸倒金・貸倒引当金を確認する」で、貸倒損失・貸倒引当金の具体的な確認方法を確認できます。
被相続人の所得税申告全体を確認したい場合 準確定申告に関する記事で、申告全体の進め方を確認できます。
相続後の自分の記帳を確認したい場合 売上・仕入・必要経費・残高確認のそれぞれの通常記事で、日々の記帳方法を確認できます。