損害賠償命令を申し立てる

概要

損害賠償命令制度は、一定の重大な犯罪の被害を受けた方またはその一般承継人が、刑事事件が係属している地方裁判所に対して、被告人への損害賠償を請求できる制度です。刑事裁判の記録や審理の成果を利用することで、通常の民事訴訟よりも簡易・迅速に審理が進むことを想定した仕組みです。

対象となるのは、故意の犯罪行為による死傷、性犯罪、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買等、一定の重大犯罪に限られます。また、申立てができるのは、その刑事事件の弁論が終結するまでです。有罪判決が出たあとに初めて申し立てる制度ではありません。

このページでは、自分の事件で損害賠償命令制度を利用できる可能性があるかを確認し、申立ての期限・申立先・必要な準備・申立て後の流れ・異議や通常の民事訴訟へ移る場合までの全体像を整理します。具体的な事件が対象罪に当たるか、期限がいつまでかといった個別の判断は、担当検察官や事件が係属する地方裁判所などへの確認が必要です。

被害者参加制度、刑事和解、通常の民事訴訟一般、強制執行の具体的な手続については、このページの範囲外として扱い、必要な限りで違いだけを示します。

このページで分かること

  • 損害賠償命令制度がどのような制度か
  • 誰が申し立てられるか
  • どのような犯罪が対象になるか
  • 申し立てる前に確認しておくべきこと
  • 申立ての期限はいつまでか
  • どこへ申し立てるか
  • 請求できる損害の範囲
  • 申立書に記載する事項
  • 申立てにかかる費用
  • 申立てから決定までのおおまかな流れ
  • 刑事裁判の判決が出るまでの扱い
  • 有罪判決が出たあとの審理の進み方
  • 申立てが却下される場合
  • 決定が出たあとの効力と異議
  • 異議が出た場合や通常の民事訴訟へ移る場合
  • 決定が確定しても支払われない場合があること
  • 被害者参加制度・刑事和解との違い
  • 状況別に確認すべきこと
  • 相談先・公式情報

対象読者

このページは、主に次のような方を対象としています。

  • 一定の犯罪の被害を受け、被告人へ損害賠償を請求したいと考えている方
  • 刑事事件が地方裁判所で進行中で、損害賠償命令制度を利用できるか検討している被害者
  • 被害者が亡くなった場合などに、一般承継人として損害賠償請求を検討している方
  • 通常の民事訴訟との違いや、申立ての期限・申立て後の流れを先に整理しておきたい方

自分の事件が対象犯罪に当たるかどうかは、このページだけでは判断できません。担当検察官や事件が係属する地方裁判所などで確認してください。

更新日

更新日:2026年9月5日

損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度は、一定の重大な犯罪について、刑事裁判の成果や記録を利用しながら、被害者等の損害賠償請求を簡易・迅速に審理するための制度です。

刑事事件について有罪の言渡しがあり、その罪が対象罪に該当する場合、裁判所は損害賠償命令事件の審理を開始します。特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日で終結する仕組みになっています。

この制度は、通常の民事訴訟に代わって必ず利用しなければならないものではなく、通常の民事訴訟とは別に用意された、刑事事件に付随する特例です。

申し立てられる人

法令上、損害賠償命令を申し立てられるのは、対象となる刑事被告事件の「被害者又はその一般承継人」です。

被害者本人のほか、被害者が亡くなった場合などの相続人といった一般承継人も、申立人となることができます。

「被害者等」という広い言い方だけでまとめず、申立人となれるのは被害者本人または一般承継人であることを基準に確認してください。

対象となる犯罪

損害賠償命令制度を利用できるのは、次のような一定の重大犯罪に限られます。少なくとも次の4つの区分があります。

  1. 故意の犯罪行為による死傷 ― 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪またはその未遂罪
  2. 性犯罪 ― 不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ・監護者性交等
  3. 逮捕・監禁 ― 逮捕及び監禁の罪
  4. 略取・誘拐・人身売買等 ― 未成年者略取・誘拐、営利目的等略取・誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取・誘拐、人身売買等

このほか、これらの犯罪行為を含む罪や、法定された各未遂罪も対象となります。

自分の事件の罪名がこれらの対象罪に当たるかどうかは、このページだけで判断せず、担当検察官や事件が係属する地方裁判所、法務省が公表している対象罪名一覧などで確認してください。

被害者参加制度の対象犯罪と、損害賠償命令制度の対象犯罪は完全に同じではありません。被害者参加制度を利用できる事件だからといって、損害賠償命令制度も利用できるとは限りません。

申し立てる前に確認すること

損害賠償命令制度の利用を検討する際は、少なくとも次の点を確認してください。

  1. 自分が被害者本人または一般承継人に当たるか
  2. 刑事事件が地方裁判所に係属しているか
  3. 起訴された罪が対象罪に該当する可能性があるか
  4. 刑事事件の弁論が終結していないか
  5. 請求しようとしている損害が、起訴された事実を原因とするものか
  6. 事件番号・係属部・提出方法を確認できるか

これらの確認内容は、事件ごとに異なります。判断できない場合は、担当検察官や事件が係属する地方裁判所へ確認してください。

期限・いつまでに

損害賠償命令の申立てができるのは、刑事被告事件の弁論の終結までです。

有罪判決が出たあとに初めて申し立てる制度だと誤解しないよう注意してください。申立て自体は刑事裁判の弁論終結までに行い、損害賠償命令事件の本格的な審理は、原則として刑事事件の終局裁判のあと、有罪となった場合に進みます。

弁論がいつ終結するかは事件ごとに異なるため、時期が近いと感じる場合や、いつ終結するか分からない場合は、担当検察官や事件が係属する地方裁判所へ早めに確認してください。

申立先

損害賠償命令の申立先は、刑事被告事件が係属している地方裁判所に限られます。

通常の民事訴訟のように管轄を一般的に探すのではなく、自分の刑事事件を審理している地方裁判所が申立先になります。

事件番号や係属している部が分からない場合は、担当検察官や事件が係属する地方裁判所へ確認してください。

請求できる損害の範囲

損害賠償命令で請求できるのは、刑事被告事件で訴因として特定された事実を原因とする、不法行為に基づく損害賠償請求です。これに附帯する損害賠償請求も含まれます。

刑事事件と無関係な別の損害まで、この制度でまとめて請求できるわけではありません。請求しようとしている損害が、起訴された事実を原因とするものかどうかを確認してください。

申立書に記載すること

損害賠償命令の申立ては、法令上、書面で行います。

申立書には、少なくとも次の事項を記載します。

  • 当事者・法定代理人
  • 請求の趣旨
  • 刑事事件の訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実

法律上、申立書には、法定事項・最高裁判所規則所定事項以外の事項を記載してはならないとされています。通常の民事訴状のように、詳細な主張や証拠を何でも申立書へ書けばよいわけではありません。

実際の書式、添付書類、提出部数、郵便料などは、事件が係属する裁判所の現行の案内で確認してください。

費用

損害賠償命令制度の申立手数料は、2,000円と案内されています。

ただし、これは申立手数料についての金額であり、郵便料や、通常の民事訴訟へ移行した場合に生じる追加費用などは別に発生することがあります。2,000円だけで最後まで費用が確定するわけではありません。

具体的な費用や納付方法は、事件が係属する裁判所の現行案内で確認してください。

申立ての流れ

損害賠償命令制度を利用する場合の大まかな流れは、次のとおりです。それぞれの段階の詳しい内容は、後続の見出しで説明します。

  1. 対象犯罪・申立人資格・期限などを確認する
  2. 申立書を作成し、法定事項を記載する
  3. 刑事事件が係属している地方裁判所へ、弁論終結までに申立書を提出する
  4. 申立て後、裁判所から刑事事件の公判期日の通知を受ける
  5. 刑事事件の終局裁判を待つ(原則として、この間は損害賠償命令の実体審理は行われません)
  6. 対象罪について有罪の言渡しがあった場合、損害賠償命令事件の審理が開始される
  7. 裁判所が損害賠償命令について決定を行う
  8. 決定に対して異議が出なければ確定し、異議が出れば通常の民事訴訟へ移行する

刑事裁判の判決が出るまで

原則として、刑事被告事件の終局裁判の告知があるまで、損害賠償命令の実体的な審理・裁判は行われません。

申立てをしたあと、裁判所は刑事事件の公判期日を申立人へ通知します。申立てから刑事事件の判決が出るまでの間は、この通知を確認しながら待つ段階になります。

有罪判決が出た後の審理

対象罪について有罪の言渡しがあった場合、裁判所は原則として直ちに損害賠償命令事件の審理期日を開きます。直ちに開くことが相当でない場合は、速やかに最初の期日が定められます。

裁判所は、最初の審理期日で、刑事事件記録のうち不要なものを除いて取り調べます。

特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日で終結する仕組みになっています。「4回で必ず終わる」という保証ではなく、特別の事情があれば審理が長引くこともあります。

申立てが却下される場合

法令上、次のような場合には申立てが却下されます。

  • 申立てが不適法である場合
  • 刑事事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することになった場合
  • 無罪等、法定された終局裁判・決定があった場合
  • 有罪であっても、言い渡された罪が損害賠償命令制度の対象罪に該当しない場合

却下されたことは、損害賠償請求権そのものが消滅することを意味しません。

一定の却下については、告知から6か月を経過するまで時効が完成しない旨の特則があります。個別事件での時効の判断は、法律相談で確認してください。

損害賠償命令の決定が出た後

裁判所は、損害賠償命令について決定を行います。

適法な異議がなければ、この決定は確定判決と同一の効力を持ちます。異議が出た場合の扱いは、次の見出しで説明します。

異議が申し立てられた場合

損害賠償命令の決定に対しては、決定の送達または告知を受けた日から2週間の不変期間内に異議を申し立てることができます。

適法な異議があると、原則として通常の民事訴訟へ移行します。異議が出たからといって、それまでの請求が消えるわけではありません。

通常の民事訴訟へ移る場合

損害賠償命令制度から通常の民事訴訟へ移る主な経路は、次のとおりです。

  • 損害賠償命令の裁判に適法な異議が出た場合
  • 4回以内で審理を終結することが困難なほど、審理に日時を要すると裁判所が判断した場合
  • 法律上の所定の申述等により、民事訴訟手続で扱うことになった場合

民事訴訟へ移行する際には、刑事手続で利用された記録を引き継ぐ仕組みがあります。

「異議が出たら最初から全部やり直しになる」というものではなく、それまでの手続を踏まえて通常の民事訴訟へ移る仕組みです。

支払われない場合は別途回収手続が必要になることがある

損害賠償命令で支払義務が確定しても、相手方に資力がなければ、実際に金銭を回収できない場合があります。

「命令を得ること」と「実際に金銭を回収すること」は別の問題です。決定や確定判決と同一の効力を得たあとに、実際の回収が必要な場合の具体的な手続については、このページの範囲外として扱います。必要な場合は、別途、弁護士等へ相談してください。

被害者参加制度・刑事和解との違い

損害賠償命令制度は、次の制度と混同しないように注意してください。

被害者参加制度との違い

被害者参加制度は、刑事裁判へ被害者等が参加するための制度です。損害賠償命令制度は、損害賠償請求を審理するための制度です。目的が異なり、対象となる犯罪も完全には一致しません。被害者参加制度を利用できる事件だからといって、損害賠償命令制度も利用できるとは限りません。

刑事和解との違い

刑事和解は、被告人と被害者等との間の合意を刑事事件の公判調書に記載し、裁判上の和解と同一の効力を持たせる仕組みです。損害賠償命令制度は、裁判所に損害賠償を命じる裁判を求める仕組みであり、当事者間の合意を前提とするものではありません。

状況別

  • 被害者本人が申し立てる場合 ― 申立人資格、対象犯罪、期限、申立先を順に確認してください。
  • 被害者が亡くなり、相続人等が申立てを検討する場合 ― 一般承継人として申立人になれるかを確認してください。
  • 自分の事件が対象犯罪に当たるか分からない場合 ― 担当検察官や事件が係属する地方裁判所へ確認してください。
  • 弁論終結が近い、または時期が分からない場合 ― 申立ては弁論終結までに行う必要があるため、早めに事件が係属する地方裁判所や担当検察官へ確認してください。
  • 刑事裁判で無罪等になった場合 ― 法定された終局裁判・決定に当たるため、損害賠償命令の申立ては却下されます。損害賠償請求権自体が消滅するわけではないため、必要な場合は法律相談で今後の対応を確認してください。
  • 有罪だが対象外の罪で認定された場合 ― 損害賠償命令制度の対象罪に該当しないため、申立ては却下されます。この場合も、損害賠償請求権自体が消滅するわけではありません。
  • 損害賠償命令に異議が出た場合 ― 原則として通常の民事訴訟へ移行します。それまでの請求が消えるわけではありません。
  • 命令が確定したが支払われない場合 ― 命令の確定と実際の回収は別の問題です。必要な場合は、別途、弁護士等へ相談してください。

相談先

  • 事件が係属する地方裁判所 ― 申立先の確認、申立書の書式、提出部数、郵便料等の手続的な案内を確認する窓口です。
  • 担当検察官 ― 対象犯罪に該当するか、弁論終結の時期、事件番号・係属部等、事件の進行状況に関する確認先です。
  • 弁護士(法律相談) ― 時効の判断、請求額や損害項目の法的評価、個別事件での判断が必要な事項の相談先です。

注意点

  • 申立ての期限は、有罪判決後ではなく、刑事事件の弁論の終結までです。
  • 損害賠償命令制度を利用できる犯罪は限定されており、すべての犯罪被害で利用できるわけではありません。
  • 被害者参加制度の対象犯罪と損害賠償命令制度の対象犯罪は完全には一致しないため、被害者参加制度を利用できることをもって損害賠償命令制度の利用可否を判断しないでください。
  • 申立書には法定事項・最高裁判所規則所定事項以外の事項を記載してはならず、通常の民事訴状と同じ感覚で詳細な主張や証拠を自由に記載できるわけではありません。
  • 損害賠償命令事件の審理は、特別の事情がある場合を除き4回以内の審理期日で終結する仕組みですが、必ず4回以内で終わることを保証するものではありません。
  • 申立手数料は2,000円と案内されていますが、郵便料や通常の民事訴訟へ移行した場合の追加費用等は別に生じ得るため、2,000円だけで最後まで費用が確定するわけではありません。
  • 損害賠償命令の決定が確定しても、相手方に資力がなければ実際の回収ができない場合があるため、命令の取得と回収は別の問題として考えてください。
  • 決定に適法な異議が出た場合は、原則として通常の民事訴訟へ移行するものであり、それまでの請求が消えるわけではありません。
  • 申立てが却下された場合でも、損害賠償請求権そのものが消滅するわけではありません。一定の却下については、告知から6か月を経過するまで時効が完成しない旨の特則があります。
  • 損害賠償命令で請求できるのは、刑事事件の訴因として特定された事実を原因とする損害賠償請求に限られ、刑事事件と無関係な別の損害までまとめて請求できるわけではありません。

よくある間違い


よくある誤解 正しい理解


有罪判決が出たあとに初めて申し立てる制度だ 申立ての期限は刑事裁判の弁論終結までであり、有罪判決後に申し立てる制度ではありません。

すべての犯罪被害でこの制度を利用できる 利用できる犯罪は、故意の犯罪行為による死傷、性犯罪、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買等の一定の重大犯罪に限られます。

被害者参加制度を利用できる事件なら、損害賠償命令も必ず利用できる 両制度の対象犯罪は完全には一致しないため、被害者参加制度の対象であることだけをもって利用できるとは限りません。

申立書には、通常の民事訴状と同じように主張や証拠を自由に書いてよい 申立書には法定事項・最高裁判所規則所定事項以外を記載してはならないとされています。

審理は4回以内で必ず終わる 特別の事情がある場合を除き4回以内で終結する仕組みですが、必ず4回以内で終わることを保証するものではありません。

申立手数料の2,000円で、最後までの費用がすべて確定する 郵便料や通常の民事訴訟へ移行した場合の追加費用等は別に生じ得ます。

損害賠償命令が出れば、自動的に相手方から支払われる 命令の確定と実際の金銭の回収は別の問題であり、相手方に資力がなければ回収できない場合があります。

決定に異議が出ると、それまでの請求が消えてしまう 適法な異議があると、原則として通常の民事訴訟へ移行するだけであり、請求自体が消えるわけではありません。

申立てが却下されると、損害賠償請求自体ができなくなる 却下は損害賠償請求権そのものの消滅を意味しません。一定の却下には時効に関する特則もあります。

刑事事件と無関係な損害も、この制度でまとめて請求できる 請求できるのは、刑事事件の訴因として特定された事実を原因とする損害賠償請求に限られます。

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